著作盗用が限りなく強く疑われる武蔵大・大内裕和教授について、「研究不正にはあたらない」との調査を行った同大調査委の報告書が、文部科学省に対する情報公開請求によって明らかになった。
一部黒塗りになっているが、調査委が「シロ」と判断した理屈がわかる程度には開示されている。『日本の奨学金はこれでいいのか!』2章(三宅著)からの盗用疑惑(『奨学金が日本を滅ぼす』大内氏著)については、大内氏の次の説明をそのまま認めている。
――三宅の著作をデータについてのみ参考にした。しかし、執筆にあたっては山本太郎議員の質問主意書を参考にした。よって三宅の著作の盗用にはあたらない――
2013年11月11日付の山本議員の質問主意書には、
「4 日立キャピタル債権回収株式会社とエム・ユー・フロンティア債権回収株式会社による回収について
2012年度、奨学金の延滞債権回収業務を受託した日立キャピタル債権回収株式会社は21億9545万3081円を回収し、1億7826万円を売り上げ、エム・ユー・フロンティア債権回収株式会社は20億3927万9475円を回収し、1億3471万円を売り上げている。」
という記述がある。大内氏の説明では、この主意書は『日本の奨学金はこれでいいのか!』2章を参考にしたものだという。それで、その質問主意書を参考にして書いたのであって、三宅の著作を写したことにはならないそうだ。
苦しすぎる釈明である。しかも類似している箇所は質問主意部分だけではない。900字にわたって類似した文章がある。なぜそれだけ類似したのかは、三宅と大内が同じ団体で活動していた―ということ以外説明されていない。
さらに驚くのは、雑誌『選択』記事(2012年4月。三宅著)と類似した記事を多数(10件以上)発表していた問題で、大内氏があらたな釈明をしている点だ。
従来、大内氏は『選択』記事は読んでいない、つまり類似は偶然の結果なのだと説明してきた。ところが調査の過程で、この説明に強い疑問を抱かせる事実が判明する。元記事のなかの「1兆円」という数字が、じつは「3800億円」の誤りだったことに私自身が気づいたのだ。大内氏も自分の記事のなかで「1兆円」という記述をしている。『選択』記事を読んでいないという説明が事実なら、偶然同じまちがいをしたことになる。常識的にありえない。大内氏の説明は完全に崩れたと思っていたところ、調査委に対してこんな説明をしている。
「同様の誤りのある箇所につき、情報公表元(独立行政法人日本学生支援機構)に確認した上での記述であるとの説明がなされた。このことから、被告発者の記述が、一般に公表された資料その他の告発者の著作物以外の資料や、被告発者自身による情報公表元への確認に基づきなされた可能性を完全に否定することはできないと判断した。」(報告書より)
大内氏の「1兆円」は日本学生支援機構に確認して書いた結果の誤りなのだという。よくわからないが、どうやら、支援機構がまちがった内容を大内氏に伝えた、あるいは、大内氏が聞きまちがえた、そういったことを言いたいのだろうか。
大内氏が支援機構に問い合わせをしたなどというのは初耳だ。というのも、中京大の予備調査(2020年8月〜11月)に対して、彼はこんなことを言っている。
「私はジャーナリストではないので、直接の取材よりも、主として公表されている資料やデータに依拠して執筆しており、その根拠となる資料やデータは存在しています。直接取材された三宅氏の資料やデータと異なることはあり得ますが、それと盗作、盗用、研究倫理違反とは異なると思います」(2020年10月13日付「意見書」)
そして、今回の調査で大内氏は「情報公表元(支援機構)に確認」した事実を裏付けるエビデンスを示すことができていない。
問題は武蔵大調査委の姿勢だ。「1兆円」の部分だけ支援機構に問い合わせて、しかも誤った数字になるというのは、常識的にみて不自然だ。しかも証拠を示すことができていない。そうすると『選択』記事を読んでいないという説明は信用できない――という結論になるのが当然だろう。
それにもかかわらず「被告発者自身による情報公表元への確認に基づきなされた可能性を完全に否定することはできない」というのである。
「武蔵大学における研究活動上の不正行為防止等に関する規程」29条3項は次のように規定している。
「調査委員会は、被告発者の説明及びその他の証拠によって、特定不正行為であるとの疑いを覆すことができないときは、特定不正行為と認定することができる。保存義務期間の範囲に属する生データ、実験・観察ノート、実験試料・試薬及び関係書類等の不存在等、本来存在するべき基本的な要素が不足していることにより、被告発者が特定不正行為であるとの疑いを覆すに足る証拠を示せないときも、同様とする。」
支援機構に確認したのになぜ「1兆円」と筆者と同じまちがいをしたのか。説明はない。そして大内氏の説明を裏付ける証拠はない。にもかかわらずシロ。無理がありすぎる。
■武蔵大研究不正調査委の報告書(写真版 PDF 約7Mバイト)