板橋区の情報公開条例に欠陥
審査会の答申公表規定なし

 情報公開制度が戦後の日本社会が獲得した貴重な市民の権利であることは論を俟たないが、その制度に改善すべき点が多数あることもまた事実である。

 選挙運動費用収支報告書の一部を黒塗りにするという違法な条例解釈がまかりとおっていた問題について、筆者は2012年ごろからあしかけ10年にわたって改善を求めて取り組んできた。公選法によって閲覧が可能であるのに、写し(コピー)を入手する目的で情報公開請求をしたら、報告書のうち、閲覧できたはずの出納責任s者の印影が黒塗りにされたという問題である。

 問題に気づいた最初の例は高松市だった。個人情報に該当するというのが市選管の説明した非開示理由だった。「公開が予定されている情報に該当するので開示すべきである」と異議申し立てをしたところ、諮問機関である高松市情報公開審査会は2012年8月23日、出納責任者の印影は開示すべきであるとの答申を行った。

■高情審答申第2号(平成24年8月23日)

 選挙運動費用収支報告書の非開示問題はこれで完全に解決したと思っていたところ、2020年になって板橋区選管が選挙運動費用収支報告書の記載を多数箇所にわたって黒塗りにするという出来事に直面する。印影だけでなく、寄付者の住所・氏名も黒塗りにした。

 驚いて口頭で疑義をとなえたところ、住所・氏名の黒塗りはすぐに撤回したが、出納責任者の印影は黒塗りしたままで、適法であるとの説明であった。「偽造などのおそれがある」という理由だ。

 そこで、行政不服審査法にもとづく審査請求を行うと、2021年9月8日、開示すべきであるとの■答申がなされた。(令 和 2年 度諮 問第 2号)。

 板橋区選管の対応はひどいと感じた筆者は同年10月、国賠請求訴訟を起こした。被告板橋区は、提訴後すぐに印影を開示する変更処分を行った。■判決は請求棄却だったが、判決理由で次のとおり違法性を認定した。

「本件個人情報を公開しないこととした本件氏名等非公開決定は、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなくされたものとして、国家賠償法上違法であると言わざるを得ない」

 板橋区の問題に取り組むなかで23区の状況を調べてみて驚いた。印影を黒塗りにしている選管が少なくなかったからだ。10以上を数えた。片端から審査請求をすると、すべて自主的に「開示方針」に変更した。

 念のため、全国の都道府県選管の状況を調べてみた。すべて開示するだろうと予想していたが、意外にもそうではなかった。東京都選管と高知県選管が「印影黒塗り」を行っていた。それぞれ審査請求をしたが、23区のように自主的に開示方針に改善するということはなかった。

 筆者は高知県まで意見陳述に行った。東京都は意見陳述を採用しなかった。どちらが最後まで「黒塗り」を続けるか、という競争のような状況になったが、高知県のほうが先に結論を出した。今年2月7日、高知県公文書開示審査会は「印影を開示すべき」とする■答申(答申197号)を出した。

 そして東京都情報公開審査会は7月27日、やはり「開示すべきである」とする■答申(答申1052号)を出した。

 これでようやく、日本中の自治体で選挙運動費用収支報告書の一部を黒塗りにするところがなくなった(と思われる)。

 印影ひとつになぜそんなにこだわるのか。奇妙に感じる向きがあるかもしれない。しかし、筆者は、行政の側が恣意的になんでも黒塗りにできるといった情報公開制度を骨抜きにする道につながりかねない大変重要な問題だと感じるのである。

 ところで、情報公開の答申というものは自治体のホームページに公表されるものとばかり思っていた筆者は、板橋区情報公開審査会の答申が同区のホームページにないことに気づいた。不審におもって条例を確認してみると、答申を公開する旨の規定がないことを知った。

 上記の高松市はもちろん、以下に述べる東京都や高知県の情報公開条例では、答申の公表を義務付けている。ところが板橋区の条例にはそれがない。選挙運動収支報告書の氏名を黒塗りにするなど、常識では考えられない対応を板橋区選管が行ったのは、こうした制度の不備と関係があるのかもしれない。

 条例改正をするよう働きかける必要がある。

●東京都板橋区情報公開条例
(審査請求)
第14条 請求者又は第12条の第三者は、実施機関の行った公開決定等又は公開請求に係る不作為について不服があるときは、区長に対して審査請求をすることができる。
2 区長は、前項の規定による審査請求があったときは、次の各号に掲げる場合を除き速やかに東京都板橋区情報公開及び個人情報保護審査会条例(平成8年板橋区条例第27号)に基づく東京都板橋区情報公開及び個人情報保護審査会に諮問し、その意見を尊重して当該審査請求についての裁決をしなければならない。
(1) 審査請求が明らかに不適法であることを理由として却下する場合
(2) 審査請求に係る公開決定等(公開請求に係る公文書の全部を公開する旨の決定を除く。以下この号及び第16条において同じ。)を取り消し、又は変更し、当該審査請求に係る公文書の全部を公開する場合(当該公開決定等について第三者から反対意見書が提出されているときを除く。)
3 第1項の規定による審査請求については、行政不服審査法(平成26年法律第68号)第9条第1項本文の規定は、適用しない。

●東京都情報公開条例
(答申書の送付)
第30条 審査会は、諮問に対する答申をしたときは、答申書の写しを審査請求人及び参加人に送付するとともに、答申の内容を公表するものとする。

●高松市情報公開・個人情報保護審査会条例
(答申書の送付等)
第12条 審査会は、審査請求についての諮問に対する答申をしたときは、答申書の写しを審査請求人及び参加人に送付するとともに、答申の内容を公表するものとする。

●高知県情報公開条例
(答申書の送付等)
第16条の8 審査会は、第15条の3第1項の規定による諮問に対する答申をしたときは、答申書の写しを審査請求人及び参加人に送付するとともに、答申の内容を公表するものとする。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です