奨学金問題対策全国会議という団体に私はかつて所属していた。文字どおり日本学生支援機構の奨学金ローンに関する問題などに取り組む団体だが、現在、私はこの団体に対して損害賠償を求める民事裁判を起こしている。2015年にいったん自主的に退会し、4年後の2019年、再び入会しようとしたところ拒否された。理由は、私が日本学生支援機構の違法な取り立てのひとつである「繰り上げ一括請求」の問題に強い関心を持っているからというのものだった。それが思想差別であり不法行為にあたるというのが私の訴えである。
12月25日11時から東京地裁612号法廷で口頭弁論が開かれる。お時間がゆるす方はぜひお越しいただきたい。
違法な取り立てについて関心が高いからといって、どうして入会を拒む理由になるのか。おそらく、この団体と関係のない人からみればわけがわからないだろう。
全国会議が当時に送ってきた理由説明文書によれば、私が入会すれば「繰り上げ一括請求」に取り組むよう強く主張することが予想される。そうすると会の活動に支障がでるということらしい。なぜそうなるのか、私もよくわからない。
私が2015年に全国会議をやめたのは、一括請求問題への関心があまりにも低く、関心を高めるには会の外から批判する必要があるとの考えからだ。そして、2019年に再入会しようと思ったのは、全国会議が内部資料で一括請求問題に言及していることを知り、関心が出てきたのであれば再び協力したいと考えたからである。私の中で矛盾はない。
全国会議の多くのメンバーは、20年前からサラ金問題や武富士問題の取材を通じて緊密に付き合ってきた人たちでもあったから、まさか入会を拒否されるとは予想もしなかった。
全国会議の代表は大内裕和・武蔵大学教授で、今回の裁判では大内教授も被告にしている。大内氏の著作盗用に私が気づいたのは、入会拒否事件の1年後のことだった。
私が全国会議と大内氏を訴えた動機のひとつに、大内氏がいまだに最低限の謝罪すらしていないことに納得できないというのがある。また、全国会議のほかのメンバーが氏の不当な行為に沈黙している点も承服しがたい。
私的団体内部でおきた差別行為が違法になるかどうかについては、微妙な問題がある。折しも先日、国籍を理由にゴルフクラブの入会を拒否したことについて、不法行為を構成するとの判決が名古屋高裁であった。私の入会拒否にもこの判例が適用されて然るべきだと考えている。
こんな目に遭わなければ「ゴルフクラブ入会拒否」の裁判を調べることなどなかったかもしれない。逆境が人を賢くするのは事実である。
12月25日の口頭弁論に向けて、準備書面をきょう裁判所と当事者に送った。ここに転載する。
令和4年(ワ)19068号 損害賠償請求事件
原告 三宅勝久/被告 奨学金問題対策全国会議ほか1名
準 備 書 面 4
2023年12月25日 東京地方裁判所民事第43部 御中
原告 三 宅 勝 久
被告全国会議・準備書面2に対する反論ならびに追加主張を行う。
1 原告の言動は、全国会議の目的に沿ったものである。
被告全国会議は、本件入会拒否について「奨学金制度等についての現状認識や制度改善に向けた意見は団体の根幹をなすものであるから、この点について現状認識や意見を異にする者の入会を拒否することは社会的に許容される」と述べる(被告全国会議準備書面2、4頁17~20行目)。日本学生支援機構による繰り上げ一括請求の実情(以下「一括請求問題」ということもある)について強い問題意識を持ち、この問題に関する被告全国会議の姿勢を批判する発言を行った原告の存在は、被告全国会議の「根幹」について「現状認識や意見を異にする者」であり、それを理由にして入会を拒否したことは社会的許容範囲だというのである。
この主張は失当である。被告全国会議が問題視する原告の言動は、すべて日本学生支援機構の債権回収の在り方について問題提起する内容である。規約第3条の「実態調査」「調査・研究」という目的に沿った正当なもので、かつその態様も社会通念に照らして常識的であった(乙3~5、乙28、甲5-1~5-2、甲9-1、甲39-2)。
被告全国会議は、原告が被告全国会議を批判している点を難じているようであるが、奨学金制度の「実態調査」「研究」を目的に掲げているという団体の性格からも、ときに批判的意見の表明や、意見が対立して議論がなされるのは当然であり、被告全国会議内部で広く認識されていた。
また、被告全国会議が編集し、原告が第2章を執筆をした『日本の奨学金はこれでいいのか』の「あとがき」において、岩重佳治事務局長は次のように述べている。
「執筆者は、それぞれ、研究者・教育者として日々学生と接している立場から、現場を綿密に調査・取材し続けたジャーナリストの視点から、具体的な相談と救済活動の取り組みから、当事者・支援者としての問題への関わりから、今起こっていることをありのまま伝えて告発し、「事実」に基づく警告と提言をしています。これは、本書のもっとも優れた特徴であると自負しています」(甲54、193~194頁)
ジャーナリストとは、丹念に事実を調べ、検証し、批判精神をもって発言する職業であることは周知の事実である。被告全国会議はそうした原告の職業を承知し、さらに、団体が活動するうえで批判的言論もあり得ることを理解して、当初は原告の入会を認めておきながら、その発言内容がなんらかの事情で不都合になったために不合理な方法で排除したというのが、本件入会拒否の本質である。
2 性同一性障害等を理由にしたゴルフクラブ入会拒否の判例について
性同一性障害などを理由にしたゴルフクラブへの入会拒否をめぐる損害賠償事件の判例(甲27-1〜2)について述べる。
被告全国会議は、本件入会拒否とは事情が異なるなどと主張するようである。すなわち、「別訴原告が性同一性障害であること及びその治療を受けたことはクラブ入会の許否と本来関係のない事情」(被告全国会議・準備書面2、3頁25~26行目)によるものであり不法行為に当たるとした上記判例に対して、本件入会拒否は「奨学金制度等についての現状認識や制度改善に向けた意見は団体としての根幹をなすものであるから、この点について現状認識や意見を異にする者の入会を拒否することは社会的に許容されるものであり、不法行為を構成しない」(同準備書面2、4頁17~20行目)というのである。
しかしながら、この主張は失当である。
当該ゴルフクラブの入会拒否とは、性同一障害や性転換をした者は入会させないという会則や申し合わせ等は存在しなかったものの、トイレ設備などの問題が起きうるとして拒否した事案である。社会通念に照らせば不合理な差別であっても、当該ゴルフクラブにとっては円滑なクラブ運営を実現したいという一定の理由が存在している。つまり、拒否理由が団体の運営や目的にどう関係するかを問わず、不合理の程度が社会的許容範囲か否かを判断しているのである。
本件入会拒否も、その拒否理由の不合理さが社会的許容範囲か否かが争点となっているのであり、上記判例の事案と構図は共通している。
3 元国籍を理由にしてゴルフクラブ入会を拒否した判例について
さらに、団体の規約等に基づく入会拒否であっても、差別の程度が社会的許容範囲を超えていれば不法行為を構成すると判断した判例も存在する。
旧国籍を理由にゴルフクラブの入会を拒否したことが民法の不法行為を構成するとして、元韓国籍の男性がゴルフクラブを訴えた訴訟の控訴審(名古屋高裁・令和5年(ネ)487号、原審・津地裁四日市支部令和4年(ワ)138号)で、名古屋高裁は2023年10月27日、ゴルフクラブに慰謝料77万円の支払いを命じる判決を言い渡した(甲55~56)。被告のゴルフクラブは、意思決定機関たる理事会の申し合わせによって外国籍または元外国籍の者の会員数に上限を設け、空きが出た場合にのみ入会を認める旨を定めており、入会拒否はこれに従った判断であった。
控訴審判決では、まず私的団体たる当該ゴルフクラブの性格について、「会員数が約1500名に及び、新たに200口の新規会員を広く募集しており、本件ゴルフ場では全国規模の大会も開催されていたことに加えて、今日、ゴルフが一般的なレジャーの一つとなり、ゴルフクラブが親睦の場にもなっていることが顕著な事実である」として、「一定の社会性をもった団体」で判断している。そして、憲法や国際条約の趣旨、社会通念に照らせば、差別の程度が社会的許容範囲を超えており、不法行為を構成するとの判断に至っている。
私的団体が、その運営の必要性から規定等を定め、それに従って入会を拒否した場合でも、不法行為を構成する場合があることを示しているのである。
4 判例に照らして本件入会拒否は不法行為を構成する
上に示した2つの判例に照らしても、本件入会拒否が不法行為を構成することは明らかである。まず、団体の性格についてみると、被告全国会議の会員数は100名程度で一定の規模がある。出版物等を通じてひろく募集しているほか、本件入会拒否を唯一の例外として希望者は全員入会が認められてきた。会員資格は特にはなく、会員の属性は、弁護士、大学教授、記者、奨学金利用者や元利用者ら多職種にわたり、居住地は全国各地に及ぶ。入会申込書を収録した出版物を発行し、新聞等の発言や政策提言を行っているほか、一般の者が参加可能な集会をたびたび開くなど社会性と公益性のある活動を公然と行っている。知名度は高い。これらの事情から、被告全国会議は「社会性を持った団体」「開かれた団体」といえる。
そして、本件入会拒否の理由についてみると、「一括請求問題」に関する原告の考えや言動だというのであり、以下の各事情をあわせて考慮すれば不合理な思想差別であることは明白である。
▽原告はクレサラ対協と長年良好な関係にあった。被告全国会議はクレサラ対協の関連団体であり、構成員の多くが重なっている。そうした立場の原告が入会拒否されることは、クレサラ対協会員の常識に照らして想定し得ないことであった
▽原告の退会および再入会希望の事情が一貫して日本学生支援機構の業務や被告全国会議の活動姿勢に関する問題提起であり、規約が掲げた目的に沿ったものであった
▽被告全国会議の役員の中には原告の入会に賛成する意見があった
▽被告全国会議の中には一括請求に問題意識のある弁護士会員がいる。それにもかかわらず、原告のみが「一括請求」を理由に排除された(甲26、57。それぞれの事件の被告代理人である西博和弁護士は被告全国会議会員である)
本件入会拒否の不合理さの程度ははなはだしく、いじめという表現も過言ではない。上記2件の判例に照らして、憲法14条、19条の趣旨、社会通念に照らして社会的許容範囲を超えているというべきである。
5 事務局会議は開催されていない
被告全国会議によれば、本件入会拒否の判断は、規約が定める事務局会議を開いて決定したとのことである。しかし事務局会議を開いたことを裏付ける証拠は示されていない。被告全国会議副代表である訴外K弁護士のメール(甲44)で明らかなとおり、事務局会議が開催されたとの認識は役員の間に徹底されていなかった。もとより、希望者は全員入会を認めてきた前例を踏まえれば、事務局会議に諮ること自体が異例であった。その手続きは「はじめに拒否ありき」だったのである。事務局会議は事実上開かなかったか、開いたとしても会員の意見を反映させないずさんなものであった。仮に、慎重な手続きにより各会員に意見を聞けば、入会を認めるべきだとの意見が出た可能性があったことをK副代表のメールは意味している。
かかるずさんな手続きの在りかたと入会拒否理由の不合理さは一体のものである。まず拒否してから、後付けで縷々理由を並べているのである。
6 武蔵大学の調査について
武蔵大学は2022年10月21日付で被告大内の著作等に関する研究不正調査委員会を設置した。予備調査の結果、本調査が必要だと判断した。被告大内の前職場である中京大学は、予備調査の結果「本調査不要」としてそれ以上の調査はしなかったが、武蔵大学はこれと異なる判断をしたものである。この事実は、研究不正調査は、調査対象の研究者が所属する研究機関が行うことになっていることから、研究機関によって判断のありようが異なることを意味している。
武蔵大学調査委員会は調査を実施し、2023年7月5日付で報告書をまとめた。当該報告書によれば、調査委員会は、被告大内の著作物の一部が原告の著作物のそれと類似している事実、ならびに原告の著作物にある誤記と同じ誤記が被告大内の著作等にみられる事実を認定している。その上で「研究者が研究結果に対して果たすべき説明責任やデータの出典、参考文献の扱いについて、不十分な点があり、厳重な注意が必要と思われる行為」があったと結論づけている(甲58、5頁最終行付近)。
改ざん、捏造、盗用など文部科学省が定義する「特定不正行為」には当たらないと判断した。しかしながら、報告書の記載内容をよくみれば、研究不正を認定されてもやむを得ない状況であったことがうかがえる。一例を挙げて以下に述べる。
調査対象となった問題のひとつに、原告が2012年に雑誌『選択』で発表した無署名記事(甲59。以下『選択』記事という)の一部と被告大内がそれ以後に発表した記事(甲60、甲12)の一部が類似している件がある。この類似について、被告大内は従来、『選択』記事は読んでおらず、公表データを使って自身で調査して書いた結果、偶然類似した表現になった――旨の説明を行ってきた(甲61)。
ところが、武蔵大学の調査の過程で、原告が書いた『選択』記事中、「1兆円」という記述がじつは誤りであり、正しくは「3800億円」であることが判明した。「1兆円」という記述は被告大内の記事中にもみられた。つまり原告と被告大内の双方が同じ誤記をしたことになる。原告の取材方法(文科省などに直接取材)と被告大内が説明する取材方法(公表データを利用)はまったく異なるため、別々の方法でそれぞれが独自に書いた結果、偶然「1兆円」という同じ間違いが生じたことになる。こうしたことは常識的に起こりえないが、報告書によれば、被告大内は調査委員会に対して次のような釈明をしている。
「同様の誤りのある箇所につき、情報公表元(独立行政法人日本学生支援機構)に確認した上での記述であるとの説明がなされた」(甲60・6頁12~13行目)
「いつ、誰にどのように確認したのか等についての十分な説明や根拠資料の提出はなかった」
(甲60・6頁17~18行目)。
「1兆円」は公表データに基づいて書いたのではない、日本学生支援機構に確認した結果、誤って書いたのだ。それが偶然、原告と同じ誤りになったというのである。証拠を示すことはできていない。信用性を欠く説明である。
文部科学省の研究倫理に関するガイドラインは、研究者側が裏付けの証拠をもって説明できなければ研究不正と判断すると定めている(甲62)。根拠を示すことができなかったにもかかわらず、被告大内の説明を容認した武蔵大調査委の判断には疑問があるところだが、少なくとも被告大内の著作等に研究不正を疑う余地があったことは明らかである。
付記するならば、被告大内は、原告との示談交渉のなかで、『選択』記事を読んだうえで類似した記事を書いたことを認め、訂正や謝罪、解決金を支払う内容の和解案を原告代理人に示している(甲12)。和解が決裂すると、一転して『選択』記事は読んでいないと説明を大きく変えた。示談交渉と並行して、中京大学の予備調査委員会に対しては、『選択』記事は読んでいない旨の矛盾する説明をしている。
こうした説明の変遷をみても、被告大内の上記武蔵大学調査委員会に対する説明には信用しがたいものがある。
本件入会拒否がなされた当時、原告は、被告大内が原告の著作と類似した著書を発表している事実を知らなかった。原告の著作を盗用・剽窃したとの不正を疑われる行為の発覚を免れたいとする不当な動機によって、原告の入会拒否に賛同した蓋然性は高い。
本件入会拒否理由の中に、被告全国会議の共同代表である被告大内のかかる不当な動機が含まれていることは明らかである。
7 損害
原告は訴外クレサラ対協(全国クレジット・サラ金問題対策協議会=2014年に全国クレサラ・生活再建問題対策協議会に名称変更。原告準備書面3・5頁14~23行目参照)と長年緊密な関係にあった。したがって、関連団体である被告全国会議への再度の入会が認められるのはごく自然なことであると、原告は当初期待していた。拒否されるなどとは想像しなかったのである。これは多くのクレサラ対協関係者の常識感覚であった。
ところが入会したい旨を伝えてもすぐに返事がなかったため、まさか拒否する考えではないかと原告は不安を覚え、真意を確認したいと、その後メールや電話で被告連絡会議に連絡を取ったものである。本件入会拒否は原告にとっては晴天の霹靂であり、筆舌に尽くしがたい苦痛を受けた。クレサラ対協の関係者の知るところとなり名誉を傷つけられた。クレサラ対協の会員と長年交流している者が、特段の不祥事を起こしたわけでもないのに関連団体への入会を拒否されるというのは前代未聞の事態であるからである。原告は、本件拒否の不当性を訴え、支援を仰ぐためにクレサラ対協の関係者に事実を知らせざるを得なかった。
原告の職業はジャーナリストである。取り組んだテーマについて首尾一貫した責任ある発言をし行動することは、ジャーナリストの信頼の根幹に関わる問題である。30年に及ぶ職業生活のなかでそれを実現すべく努力してきた。原告にとって、サラ金問題と奨学金問題はつながっているテーマであり、それを追及する中で発見したのが「一括請求」の問題だった。被告全国会議を批判し、退会したのは、そうすることが誠実で責任ある行動だと判断したためであり、被告全国会議が「一括請求」に関心を持ってほしいとの考えからである。そして、再入会を希望したのは、被告全国会議の「一括請求」に対して問題意識を持っていることを確認したからであった。原告は退会に際して、「サラ金の「グレーゾーン」問題のときのように「一括繰り上げ撲滅運動」をぜひ力をあわせてやろうではありませんか」と呼びかけているとおり(甲5-1~5-2、原告準備書面3・13頁)被告全国会議が一括請求に関心を持つようになれば再び入会し、協力して活動する意向であった。再入会を申し出たのは、かつての自分の発言に矛盾をきたしてはならないと考えたためである。
被告全国会議の親団体であるクレサラ対協と原告は、2000年初頭のサラ金問題から約20年の長きにわたって密接な関係を持ってきた。被告全国会議を退会した後もその関係はいささかも変わっていない。ときにマスコミに対する厳しい批判を受けながら、原告は、多重債務問題や貧困問題に取り組むクレサラ対協の関係者や読者の信頼を得るべく、ジャーナリストとして真摯に活動してきたのである。本件入会拒否は、こうした原告のジャーナリストとしての活動を頭ごなしに否定するに等しい行為であり、原告の受けた苦痛には甚大なものがある。
また本来であれば、被告全国会議の会員らと協力して、奨学金問題の取材を行い、記事や著作を発表することができたはずであるのにそれが困難となり、取材活動に重大な支障が出た。
仮に原告が再入会することによって被告全国会議がなんらかの不利益を被ったとしても、原告が受けた不利益と比較衡量した場合、後者のほうがはるかに大きいことは明らかである。
以上