あらすじ
中堅幹部隊員によるパワハラ的行為を告発をしたところ、調査がなされるどころか「虚偽告訴」だとして警務隊に逮捕される――まさに「物言えば唇寒し」と言わんばかりの事件が海上自衛隊で起きている。逮捕されたのは元隊員と現職2等 海尉で、数日で釈放され不起訴(嫌疑なし)が確定した。被害者の2人は2023年4月、国を相手に国賠訴訟を提起した。警務隊の逮捕は不当な逮捕権の請求・執行であり、加えて露骨な弁護人選任権の侵害行為もあった――との訴えに対し、国側は徹底抗戦の姿勢で応じる。 |
1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、前回につづく
「タバコ事件」の真相
答弁書によれば、E曹長(先任伍長)をパワハラで告発したA2尉とB3曹を虚偽告訴容疑で警務隊が逮捕した(嫌疑なしで不起訴)背景事情として、A2尉とE曹長の間で「喫煙」をめぐって激しい言い争った「事件」に触れている。
令和3年12月中旬、横病(自衛隊横須賀病院)敷地内は全面禁煙であるにもかかわらず原告A及び訴外隊員の両名が喫煙していたのを確認したE曹長は、厳しく注意した上で、原告Aの上司に対し喫煙の事実を伝えるとともに、E曹長が定期的に行っている吸い殻拾いをやってもらうという意味での罰を与えると発言したところ、原告Aは「なんで幹部が海曹士ごとき似罰を与えられなければいけないんだ」と激高し、言い合いとなった。 |
A2尉がほかの隊員とともに、タバコを吸ってはいけない場所で吸っており、それをE曹長がとがめたところA2尉が逆ギレしたという国の説明である。A2尉がE曹長のパワハラ告発に協力したのはその腹いせだったというニュアンスがにじむ。
じっさい、E曹長は「腹いせ」説を警務隊の取り調べに対して述べている。
副官(A2尉)は多弁で人の噂話が好きで、誠実そうでない人間です。(略)告げ口をして相手を陥れようとするタイプの人間です。ですから、今回の私に対する懲戒処分の申し立てについても、副官が私に対する腹いせのためにしたことだと思います。 (中略) ・・・Aが私を貶めるために自分の手を下さず、周囲の人間を利用して事実と異なる訴えをさせた卑劣な行為は断じて許せません。 |
ところが、この「タバコ事件」の目撃者によれば、事件の光景はやや違っている。現場に居合わせたM3佐は、警務隊の取り調べに次のように述べている。
(AとE曹長のトラブルについて) |
M3佐は、
・「自分は喫煙していない」とA2尉が答えた、
・E曹長が激しい剣幕で職場に怒鳴りこんできた、
・A2尉は謝ったがE曹長が許さないといった発言をした、
――といった事実を目撃証言として述べている。国の言い分ではA2尉が全面的に悪くなっているが、M3佐の説明をみると、E曹長の言動にも問題があるようにみえてくる。
(つづく)