過労死の証拠を「隠蔽」する長崎県警、「当直日誌」を自殺事件後に廃棄

【過労死の証拠を「隠蔽」する長崎県警、「当直日誌」を自殺事件後に廃棄】

「改善されることを願います」

――遺書にそう残して自死した長崎県警佐世保署交通課交通捜査係長の男性警部補(当時41歳)の遺族が県を相手取って起こした国家賠償請求訴訟の控訴審第1回口頭弁論が、10月14日、福岡高裁(岡田健裁判長)であり、男性の上司らの「重過失」の有無を争点とする審理がはじまった。
 
 1審長崎地裁判決は、月間200時間を軽く超す長時間労働や課長のパワハラによる安全配慮義務違反があったことを県が争わなかったことから、労働時間の計算を除いては詳細な事実認定のないまま逸失利益や慰謝料など請求額のほぼ全額にあたる1億3500万円の支払いを命じる原告勝訴を言い渡した。これに対して遺族側は、課長やその上司である署長の「重過失」について言及がないことなどを不服として控訴していた。国賠法1条2項が、「公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する」と定めていることから、同項に基づいて県に求償権を行使させたいとの趣旨である。

 課長は懲戒処分でもっとも軽い戒告、署長は懲戒処分ですらない本部長注意を受け、それぞれ依願退職しているが、遺族は、あまりに軽すぎる処分であり、再発するおそれがあると訴えていた。

 この日の口頭弁論で岡田裁判長は 遺族側代理人(中川拓弁護士)に対して、「控訴の趣旨が(元署長・元課長の)重過失の有無であるということなので、(元署長らに)訴訟告知をしないのはなにか理由があるのですか」と尋ね、訴訟告知をするよう促した。訴訟告知の結果、元署長・元課長が補助参加人として訴訟参加するかどうか反応をみた上で審理を進めたいと述べた。重過失の有無について判断する考えとみられる。
 
 また時間外労働時間の算定についてもあらためて計算したいとも述べたが、これは、当直や、夏休みを取得した上での勤務を労働時間とみなさなかった原審の判断を見直す可能性をうかがわせる発言である。

 時間外労働時間については、県警が「当直日誌」など当直時の勤務実態を証明する重要書類を警部補が自死した後に廃棄していた事実があらたに判明した。県警は、当直を労働密度の低い断続的労働(労基法41条)にあたるろして労働時間に算入していなかったが、じっさいは仮眠をほとんどとらず不眠不休で働いていた様子が本人の手記や同僚の証言で判明している。不都合な証拠だとして意図的に廃棄した可能性はぬぐえない。原審では、そもそも当直を断続的労働として取り扱う上で必要な人事委員会の許可文書が存在しないなど、手続きのずさんさが露呈していた。

 このほか、亡くなった警部補は夏休みを取得しながら出勤していた問題については、背景事情として、年休取得の「ノルマ」があったことが判明した。警部補が佐世保署に赴任した1か月後の2020年5月に、本部長から各署長あてに「年次休暇等の計画的取得促進について」と題する通知が発信されている。9月末までが「奨励期間」で、本部宛に報告を求める内容になっている。また、同年9月9日には、佐世保署長から課長ら所属長に宛てて、奨励期間を1か月延長する通知が出されている。労働時間短縮、サービス残業や、休みをとっていないのに取ったことにする、いわば「カラ休暇」が、休暇取得促進の名のもとに横行していた実態を浮き彫りにした。
  
 なお、一審判決は、夏休みをとった上での出勤は休日勤務にあたるとの遺族側の主張に対し、自ら休暇を取り消したとして通常の勤務であると判断した。

 次回第2回口頭弁論は11月27日13時半から、ウエブ弁論方式で行われる予定。

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