武蔵大が大内裕和教授の研究不正調査を行った際、盗用を「孫引き」とすり替えて免罪する不正隠蔽工作を行った疑いがもたれている問題で、工作の具体的な態様が次第に明らかになってきた。
訴訟の中で武蔵大学が開示した調査の議事録に次の記載がある。
(調査委員が大内氏に対して行った質問)
――日立キャピタルの回収金額、委託費用は山本議員の質問主意書が根拠となっているが、それが正しいか確認は行われているか。
※日本学生支援機構が公表している随意契約一覧をたどれば金額は出るのかもしれませんが。
(大内氏の回答)質問主意書の作成にかかわった。その数値は三宅氏の著書を参照。公開されているものなので三宅氏に参考にする旨の確認は行わなかった。またJASSO(日本学生支援機構)に数値が正しいかどうかの確認は行わなかった。
私がまず着目したのが、委員が口にした「随意契約一覧」という言葉だ。「随意契約一覧をたどれば金額は出るのかもしれませんが」と発言している。また、この委員の質問に対して大内氏が「公開されているものなので」と回答している点にも目をひかれた。
随意契約一覧なる文書は、この議事録をみるまで知らなかった。日本学生支援機構のホームページをみると、たしかに同名の資料が公開されている。
随意契約一覧に目をとおしながら、これまで疑問に思っていたことがわかってきた。
武蔵大の調査委は「孫引きではあるが盗用ではない」と結論づけている。私の著述中の回収データ(日立キャピタル債権回収株式会社など債権回収会社の延滞債権回収額と手数料収入)は、日本学生支援機構の公表データの引用であり、大内氏はそれを「孫引き」したというのだ。私は引用した覚えはない。支援機構への取材から得たデータを集計した上で記載した。その旨資料をだして説明をしている。それが「公表データの引用」にされてしまった。めちゃくちゃな調査であることは言うまでもないが、なぜこんな話になったのか。いまひとつわからない。
その疑問が、随意契約一覧で解けた気がした。おそらくこういうことではないか。
(推論です)
ーー随意契約一覧は大内氏の釈明のなかには出てこない。調査委が独自に発見した。調査委員会の委員のひとりがこれに目をつけ、回収データは随意契約一覧の数字を集計すれば得られるだろうと推測した。そして大内氏に「日本学生支援機構が公表している随意契約一覧をたどれば金額は出るのかもしれませんが」と示唆した上で、数字が正しいか確認したのかと質問をした。
上記委員発言を聞いた大内氏は、日本学生支援機構のホームページに「随意契約一覧」という文書が公開されていることを知り、そこに問題の回収データがあると誤認した。そして、それを奇貨として「公開されているものなので…(三宅氏に参考にする旨の確認は行わなかった)」と答えた。
随意契約一覧を原典(引用元)にしてしまえば、三宅がそこから引用したという釈明が成り立つ。この理屈を使えば大内氏を救える。そう考えて糠喜びしたのかもしれない。しかし、随意契約一覧から回収データを読み取ることはできなかった。一覧にあるのは契約金額だ。じっさいの支払額ではない。また、当然のことながら回収実績も契約にはでてこない。そのことに気がついた調査委は、次の言い訳を考えつく。「公開されているものなので」という大内氏の上記回答の悪用だ。この大内回答を次のように改変する。
「…原告(三宅)の著作物に引用されていた日本学生支援機構(JASSO)の公表している数字を(原典に直接当たらずに)参照した」
大内氏がそう話したことにした。そして公表された原典が存在しないことを知りながら、それがあることにして、「孫引き」ではあるが盗用ではない、と強引に結論づけた。根拠は大内氏の「公開されているものなので」という発言だ。特定不正行為を認定しなければ調査報告書を公開する必要もない。どうせわかりっこない――
(推論ここまで)
三宅の記述中の回収データが日本学生支援機構の公表データの引用だというのであれば、当然「原典」たる公表データを確認しているはずだ。それを明らかにせよ。訴訟で私は被告武蔵大に対してそう求めた。これに対して武蔵大は、「原典」を確認していないと回答した。原典がわからないのになぜ「引用」と判断できるのか。奇妙に思って追及すると、大内氏がその旨(三宅記述中の回収データは公表データの引用である)説明したと釈明した。
ならば、その大内発言を記録した文書があるだろうと、発言の裏付けとなる証拠文書の開示を求めた。はたして、のらりくらりとして出してこない。いつまでたっても「原典」が現れない。まさに「幻の原典」である。いったい大内氏はどんな発言をしたのか。繰り返し開示を求めてようやく出てきたのが冒頭で紹介した「公開されているものなので」という発言の記録だった。
簡単にいえば、公表されているようですね、と不正確な情報を与え、それに乗じる形で「公開されているものだから」と不正確な回答が返ってきた。それをいいことに、三宅の記述中の回収データは公表データの引用であると大内氏が発言した、という事実無根の話を作り上げ、不正を免罪する根拠に使った。
およそありえない調査の態様だ。特別調査委員会をつくって調査をするに値する一大不祥事である。
分野を超えてこの様な事例を共有し、議論する事が重要だと思います。
私はとある地質学の研究不正問題の経緯を調べておりますが
論文中の明白な改ざん行為に対して
・大学:結論には影響しないため調査はしない。掲載誌が調査するべき
・学会:改ざん行為を支持。不正を指摘した学者を追放。
・文科省:大学の対応を支持。関与しない。
といった具合の事例です。
恐らくは他分野でも同じような問題を抱えていると思いますが、Pubpeer等を見るにつれ、研究不正の多さに驚かされるばかりです。
ありがとうございます。