昨日11月5日、東京地裁で、奨学金問題対策全国会議(大内裕和代表)を相手取ったあらたな訴訟の第1回口頭弁論があった。全国会議が今年5月18日に都内でシンポジウムを開き、そこに私が取材目的で参加しようとしたところ拒否されるという出来事があった。この拒否行為が憲法が保障する平等権や情報摂取権を侵害するという訴えである。
被告全国会議(代理人・岩重佳治/西川治弁護士)は全面的に争う旨の答弁を行った。次回第2回口頭弁論は、来年(2025年)1月14日午前11時、東京地裁411号法廷で開かれる。訴状に対して、被告側が詳細な反論を行う予定である。
裁判開始にあたり、私は以下のとおり意見陳述を行った。
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令和6年(ワ)24860 損害賠償請求事件
原告 三宅勝久
被告 奨学金問題対策全国会議
意見陳述要旨
2024年11月5日
東京地方裁判所民事第44部乙合議係 御中
三 宅 勝 久
1 はじめに
意見陳述の機会をいただきましてありがとうございます。
訴訟に臨むにあたり私の気持ちを述べたいと思います。
この事件を一言であらわすなら「集団による差別」「集団いじめ」です。
2 ジャーナリストの良心
私はジャーナリストを職業として30年以上になります。1990年ごろから中南米やアフリカの紛争地を取材して、現地の生活に密着したルポルタージュや報道写真を雑誌や通信社に発表しました。その後新聞社で新聞記者をやり、2002年退職して現在にいたります。
一貫して心がけてきたのは、社会の底辺に視点を置く、対立する双方の意見を聞く、批判精神を忘れない、権力や圧力に屈しない、利害に縛られることなく独立した立場で責任ある言論を行う、といった姿勢です。
本件入会拒否は、このジャーナリストの良心に従って私が行った言動に起因した差別だということができると思います。
3 被告との関係
被告の親団体であるクレサラ・生活再建問題対策協議会(クレサラ対協)とは新聞記者時代から接点があり、新聞社を退職した後はより密接に交流を持ち、その関係はいまも続いています。
本訴訟で争点となっているシンポジウムの参加拒否に関与した水谷英二司法書士と私が知り合ったのは、新聞社を退職した直後です。水谷司法書士が違法な回収業者から脅迫される事件があり、取材をしてテレビ番組や雑誌記事で発表しました。
続いて武富士の問題に取り組みましたが、きっかけのひとつは水谷司法書士の次の趣旨の発言でした。
「マスコミはヤミ金だけを取材報道するな。サラ金問題を取り上げろ。なかでも武富士がひどい。武富士問題を取り上げるべきだ」
新聞やテレビ、大手雑誌社は軒並みサラ金業界から広告料を受け取っており、サラ金批判はタブーでした。私は苦言を受け止め、同社を批判する記事を雑誌に連載しました。その結果、武富士から1億1000万円の損害賠償請求訴訟を起こされますが、勝訴しました。私はこの経験を通じて、水谷司法書士らのジャーナリズムに対する信頼を得たと思いました。信頼を裏切ってはならないとの思いを強くしました。
4 奨学金ローン問題と再入会拒否
続いて私は奨学金ローン(貸与型奨学金)の問題に取り組みました。教育の機会均等を保証する公的な制度を担う日本学生支援機構が、営利を優先して利用者を苦しめていることを知り、告発する記事や著書を発表しました。取材にあたってはクレサラ対協関係者の協力を得ました。
2013年に被告全国会議がクレサラ対協の関連団体として設立されました。私は被告の活動に協力したいと考えて入会しました。
その後2015年12月ごろ、私は被告会議をやめました。というのは、私は取材を通じて、日本学生支援機構による施行令を無視した一括請求(期限の利益喪失)を疑問視していたのですが、この一括請求に関する被告会議の問題意識が希薄だと感じたためです。
そして退会から4年後の2019年、私は被告会議が一括請求問題について問題意識を持っていることを知り、ふたたび一緒に活動したいと考えて再度の入会を申し出ました。しかし拒否されました。これは予想外でした。
入会を拒否する理由として、被告からは、一括請求に関する私の言動に原因があるといった趣旨の説明を受けましたが、理解困難でした。クレサラ対協や関連団体の活動の中で、批判したり意見が対立することはめずらしくなく、関連団体への入退会も自由になされていたからです。
5 本件シンポ参加拒否
この被告による再入会拒否と本件シンポジウム参加拒否は、その動機において共通するものがあると私は感じます。
本件シンポジウムの参加を拒否した際の被告の態度は異様です。子どもじみていると言っても過言ではありません。
一般に公開された催しだと宣伝し、かつ参加を呼びかける案内を直接送った相手に向かって、参加を拒んだばかりか資料の提供すら拒み、拒否理由の説明もしない。
「帰るから、理由を聞かせてほしい」
小声で穏やかに尋ねる私に対して、西川治弁護士は「これ以上やると威力業務妨害です」とまで言いました。まるで奨学金問題に関する記事を書くなといわんばかりの露骨な取材妨害に、私は強い精神的衝撃を受けました。
6 モノ言う者が排除される世であってはならない
被告が私を排除した理由はなにか、いまも説明がありません。かつて私が、一括請求に関連して被告の活動を批判したことと関係があるのでしょうか。そう考えたとき、たいへん残念ですが、批判記事を高額訴訟で封じようとした武富士の姿と被告の姿が重なって見えます。「マスコミはサラ金問題を取り上げろ」と辛辣に批判した水谷司法書士の言葉が痛烈な皮肉として耳に蘇ります。
本件入場拒否は、法曹関係者が加担して公然となされた差別行為です。いじめです。不当な取材妨害です。モノを言う者が排除される息苦しい世の中であってはならない。私は武富士に訴えられたときにそう思いました。同じことをいま強く思います。それが本件提訴を決意した一番の動機です。
当裁判所において慎重な審理がなされることを求める次第です。
以上