第1部 「海自・先任伍長のパワハラ告発したら逮捕された!」事件(15)

あらすじ

 中堅幹部隊員によるパワハラ的行為を告発をしたところ、調査がなされるどころか「虚偽告訴」だとして警務隊に逮捕される――まさに「物言えば唇寒し」と言わんばかりの事件が海上自衛隊で起きている。逮捕されたのは元隊員と現職2等 海尉で、数日で釈放され不起訴(嫌疑なし)が確定した。被害者の2人は2023年4月、国を相手に国賠訴訟を提起した。警務隊の逮捕は不当な逮捕権の請求・執行であり、加えて露骨な弁護人選任権の侵害行為もあった――との訴えに対し、国側は徹底抗戦の姿勢で応じる。

10111213前回につづく

「懲戒望まない」を迫る空気感(国答弁書その4)

 C3曹は先任伍長のE曹長がA2尉を大声で怒鳴っている様子を目撃した。そして、その理由が懲戒処分申し立てにあるのではないかと考えたと警務隊の調書で述べている。この事実は、E曹長に対する懲戒処分申し立てが実質的にタブーであり、それなりの「覚悟」を要する行為だったことを想像させる。

 先任伍長の懲戒処分申し立てはやってはならないことである。そんな空気感覚が国の言い分からもうかがわれる。

 すでに触れたとおり、パワハラに関する懲戒処分申し立てが虚偽告訴罪になるかどうかの判断について、訴状は、「客観的事実」が真実かどうかが重要だと述べている。

1 虚偽告訴罪にいう「虚偽」とは申告者(行為者)や関係者の主観を問わず客観的に現れた事実が真実か否かで判断すると解釈される。
2 パワハラに関して懲戒処分を申したてる場合は、客観的な事実(パワハラとしてなされた言動)が真実か否かがその判断基準となり、被害者や関係者の主観は判断基準には含まれない。

 これに対して国は、パワハラかどうかを判断するにあたっては、被害者(とされる者)の心情や、その置かれた状況なども考慮すべきだと反論する。つまり、受け手の主観が大事なのだとるる述べる。
 

 …防衛省においては「階級、職権、期別、配置等による権威若しくは権力又は職場における優位性を背景に、職務の適正な範囲を超えて、職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与え、又は職場環境を悪化させる行為(乙●「パワーハラスメントの防止等に関する訓令」第2条)と定義されているところ、厚生労働省の定義における「優越的な関係を背景とした言動」といえるか否か、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」か否か、「就業環境が害される」か否か、また、防衛省の定義における「権威若しくは権力又は職場における優位性を背景に」したといえるか否か、「職務の適正な範囲を超え」たか否か、の判断においては、当該行為を「したとされる者」の客観的な発語そのもののみならず、声の大きさ、口調、表情その他の態度及び「されたとされる者」の心情や、その置かれた状況等が要素となると考えられる。
 そうすると、パワーハラスメントの成否の判断においては、その性質上、純粋に客観的な事実経過だけではなく、「したとされる者」の口調及び態度等についての「されたとされる者」による評価、また、「されたとされる者」の心情等、主観にわたる部分が結論に影響することになる。
 そのような場合には、原告が訴状においていう「客観的事実」そのものに、必定、純粋に客観的な事実経過だけではなく、「されたとされる者」の主観が含まれるのであって、申告者(行為者)や関係者の主観が問われないということはない。
 (中略)
 

 国の答弁によれば、さらに、海自横須賀地方警務隊がA2尉やB元3曹をしたのは、E曹長に懲戒処分を受けさせる目的で答申書を作成した行為に虚偽告訴の疑いがあったからであり、答申書に記載された内容がパワハラにあたるかどうかは関係がないのだという。
 

 原告らは(AさんとBさん)、虚偽の懲戒処分の申し立てを行った嫌疑があったものであり、パワーハラスメント該当性の判断に「被害者の主観」が考慮されるか否かという点が問題になる余地はなく、訴状記載の整理は意味がない。
 ・・・(懲戒申立書添付の答申書を作成した隊員らは)・・・パワーハラスメントを基礎づける重要な要素となる「恫喝」「脅迫されている」「威圧的に怒鳴られた」などの事実について、真実と異なる旨、横須賀地方警務隊に述べている。

 いったい何が虚偽だというのか、筆者は意味がよくわからない。B3曹は、逮捕直後こそ警務隊の調べに「懲戒処分申し立てをするとは聞かされておらず、パワハラホットラインあたりに相談する程度だと思っていた」「名前を貸すだけでたいしたことじゃないだろう」「懲戒申し立てをするなら署名を拒否した」などと。申し立てるつもりはなかった」との内容の調書を取られているが、後日、真意ではなかったとして訴訟を起こしている。
 
 C3曹も、懲戒処分申し立てに使われるとは知らなかったとしながらも、患者対応中に院長の出迎えをしなかったことをE曹長に大声で叱責された事実や、帰隊時刻をめぐる理不尽な指導をE曹長から大声でされた事実は認めている。N士長、R事務官、J3曹も、当初の答申書に記載された客観事実の骨格部分に大きな誤りはない。

 E曹長は普段から粗暴な言動をする傾向があったり、はれものにさわるような扱いをしていたのではないか、そう疑う余地が多分にある。 

 国(防衛省)の反論とは、要するに、本当は答申書にあるように怖くはなかった、恫喝とも感じなかった、懲戒申し立てをする意思はなかった、だから虚偽告訴だ――ということなのだろう。この考え方自体に、「懲戒処分申し立てなんてしないよな、そんなことをしたらただじゃ済まないぞ」――といわんばかりの無言の圧力、空気のようなものを私は感じるのだが、読者のみなさまはいかがだろうか。

(つづく)
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