第1部 「海自・先任伍長のパワハラ告発したら逮捕された!」事件(14)

あらすじ

 中堅幹部隊員によるパワハラ的行為を告発をしたところ、調査がなされるどころか「虚偽告訴」だとして警務隊に逮捕される――まさに「物言えば唇寒し」と言わんばかりの事件が海上自衛隊で起きている。逮捕されたのは元隊員と現職2等 海尉で、数日で釈放され不起訴(嫌疑なし)が確定した。被害者の2人は2023年4月、国を相手に国賠訴訟を提起した。警務隊の逮捕は不当な逮捕権の請求・執行であり、加えて露骨な弁護人選任権の侵害行為もあった――との訴えに対し、国側は徹底抗戦の姿勢で応じる。

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 E曹長が怒鳴ったわけ

 先任伍長E曹長がパワハラをしたとする虚偽の内容の懲戒処分申し立てをした「虚偽告訴」容疑でA2尉とB元3曹を海上自衛隊横須賀地方警務隊は逮捕した(嫌疑なしで不起訴)。その行為に違法性はないと国は答弁書で主張する。懲戒申し立て書にはB元3曹ら隊員の答申書が証拠として添付されていたが、それらの内容は事実ではないというわけだ。根拠として国が出してきたのが後日海幕が作成した「被害者」らのあらたな答申書や警務隊の調書である。
 
 当直明けの早朝、患者対応などで病院長の出迎えに行けなかったことを理由に、E曹長から怒鳴られたり、患者対応を中断させられるといった事実を当初の答申書に記載したのはC3曹である。C3曹は、その後海上幕僚監部服務室による聴取を受け、当初の答申書に記載された事実関係を概ね踏襲した上で、懲戒処分申し立てに使うのであれば署名しなかったという趣旨の答申書が作成される。国によれば、それでも虚偽告訴罪を疑うに足る証拠だということらしい。
 
 国側は、海幕の答申書とあわせて、警務隊が作成したC3曹の供述調書を「虚偽告訴」容疑での逮捕を正当化する根拠として証拠提出した。やはり、E曹長に関してC3曹が当初の答申書に記載したことは概ね事実であると認めたうえで、懲戒処分申し立てをする意図はなかったという趣旨が述べられている。

 …(A2尉がC3曹から聞き取って作成した答申書に)署名押印したが、あくまで病院長(自衛隊横須賀病院長)に意見を聞いてもらうためにやったことです。院長に話を聞いもらって少しでもE曹長の態度が柔らかくなってくれればそれでよかった。けっして伍長を懲戒処分にしたくてA2尉に書類作成を依頼したしたわけではありません。懲戒申し立てをするなら署名は拒否しました。

 懲戒処分申し立てに私の答申書が勝手に使われていたため、院長や会計課長その他いろんな調査官から聞き取りを受けました。懲戒処分を望むのかと何度も聞かれました。私は、懲戒処分は望みません。処分申し立てに答申書が使われるとは聞いていないと説明しました。そのため、処分を望まないという文言を加えた答申書を作ることになりました。

 前にも触れたが、懲戒処分を望むという文言はC3曹の答申書にはない。あくまで処分の申立人はB元3曹だ。ほかの隊員の答申書は「パワハラ」が疑われる事実が存在することの疎明資料という位置づけである。その疎明資料である答申書、つまり証拠に手を入れて、「懲戒処分を望まない」との文言を付け足したというのだ。手続きのあり方として正しいやり方なのか、強い疑問を覚える。
 
 ところで、警務隊が作成したC3曹の供述調書をみていくと、興味深い内容があることに気がついた。
 

 …A2尉が転勤する少し前、横病(自衛隊横須賀病院)の1階と2階をつなぐ階段上で、「お前はぜったいに許さないからな」と横病2階に響きわたるような大声で伍長(E曹長)がA副官(2尉)を怒鳴ったことがあります。A副官はしんみょうな顔で「すみません。すみません」と言っていました。M3佐が間に入って伍長をなだめていました。ほかの看護師さんたちが「すごいね」「なんでしょうね」と驚いていました。
 私は、今回の処分申し立ての件で、伍長がAさんのことを怒っていたのではないかと思います。

 病院内でE伍長が大声でAさんを怒鳴っていたという。その理由は、懲戒処分申し立てにあるのではないか。C3曹はそう思ったというのだ。

 E曹長の懲戒処分を望まない旨、C3曹はどうして述べたのか。動機や事情、真意を慎重に考える必要がありそうだ。
 (つづく) 

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