能登半島で大地震が発生した翌日の1月2日、羽田空港で日航エアバス350機と海保機が滑走路上で衝突、炎上する大事故が起きた。海保機の乗員6人のうち5人が死亡する惨事になったが、一方で日航機の乗員乗客400人近くが全員脱出に成功したのは不幸中の幸いであった。事故原因は警察や国交省運輸安全委員会の調査を待ちたいが、筆者は10年前のある事故を思い出しながら、「真相究明」について一抹の不安を禁じ得ないでいる。
2014年1月15日朝、広島港南方の瀬戸内海沖上で、海上自衛隊輸送艦「おおすみ」(8900トン)と釣り船「とびうお」(5トン未満)が衝突、釣り船が転覆して乗っていた4人のうち2人が死亡した事故である。「とびうお」の後ろから「おおすみ」が接近、衝突するという稚拙な追突事故。それが真相であることが客観的事実から明らかになっているが、捜査や調査を行った海保や国交省運輸安全委員会は、いずれも「とびうお」が急に右転したのが衝突原因だった――というきわめて不自然な理屈で自衛隊側の責任を釣り船側に転嫁してしまった。詳しくは拙著『絶望の自衛隊』第10章をお読みいただきたい。
自衛隊と海上保安庁の間でなんらかの「取り引き」があった可能性が否定できない。
この「おおすみ」事件の取材を通じて痛感したのは、省庁という組織はその責任を逃れるためであれば平気で世を欺くということである。そして、その手段として新聞・テレビを通じた世論誘導がある。今回の羽田の事故でもっとも省益を守ろうと考えているのは海上保安庁だろう。
滑走路上で2機が衝突する事故は、あってはならないが典型的な事故パタンのひとつである。ありがちな原因はおおきく2つある。
(1)着陸使用中の滑走路に離陸予定機が誤進入
(2)離陸使用中の滑走路に着陸予定機が誤着陸
(1)の場合、
(a)離陸予定機が管制の指示を聞き間違える(「滑走路手前で待機せよ」を「進入可」と誤解)
(b)管制が誤った指示をする
(2)の場合、
(c)着陸予定機が管制の指示を聞き間違える(「着陸許可」がないのに許可があったと誤解)
(d)管制が誤った指示をする
――といった原因がありえる。
過去の事故例からみれば、もっともありえるのは(a)だろう。一般的にみて、その他の可能性はかなり低いように思う。待機を離陸許可と間違えるのに比べて着陸許可を聞き間違えるというのは常識的に考えて起こりにくい。着陸のほうが時間的余裕がある。
事故現場の空撮映像をみると、海保機は離陸態勢で滑走路上に待機しており、その背後から日航機が降下し、海保機の尾翼から天井をひっかくように衝突したようにみえる。
仮に海保機が離陸態勢にあったとすれば、いったいいつどのような手順で滑走路に入り、滑走路上にいたか、日航機の着陸手続きとの関係が問題になる。
あるいは、いったん着陸許可を出した後でも、着陸までの時間をつかって小型機を離陸させるというアクロバチックな滑走路運用をしていたのだろうか。
なお「おおすみ」事故のときは、「おおすみ」か「とびうお」かどちらが先を進んでいたかというもっとも基本的な事実関係が事故発生から1年間も隠されていた。海上と異なり、今回の事故は、原因を究明する物証が多数残されているのが幸いである。