第1部 「海自・先任伍長のパワハラ告発したら逮捕された!」事件(13)

あらすじ

 中堅幹部隊員によるパワハラ的行為を告発をしたところ、調査がなされるどころか「虚偽告訴」だとして警務隊に逮捕される――まさに「物言えば唇寒し」と言わんばかりの事件が海上自衛隊で起きている。逮捕されたのは元隊員と現職2等海尉で、数日で釈放され不起訴(嫌疑なし)が確定した。被害者の2人は2023年4月、国を相手に国賠訴訟を提起した。警務隊の逮捕は不当な逮捕権の請求・執行であり、加えて露骨な弁護人選任権の侵害行為もあった――との訴えに対し、国側は徹底抗戦の姿勢で応じる。

1011前回につづく

 
 「E曹長発言はパワハラではない」(国答弁書)その2

 2023年4月20日付の国側答弁書の内容を引き続きみていく。

 先任海曹E氏による「パワハラ行為」があったとしてB元3曹が代表となって海幕や横須賀総監部に告発した。それが「虚偽告訴罪」にあたるというのが警務隊の理屈だ。横須賀地検は勾留延長請求をせずに釈放、不起訴としたものの、逮捕手続きに問題はなかったと国は裁判で主張する。国によれば、Bさんの答申書の内容が虚偽であるばかりか、N士長(女性、2通)、C3曹(女性)、R事務官(女性)、J3曹(男性)の答申書も、同様に虚偽だという。

 どこがどう「事実と異なる」のか。C3曹長の答申書(2022年2月4日付の2通。連載第4回参照)について、国は次のような主張を行っている。

 原告Aは(中略)…かねてよりE曹長の口調や態度に不満を漏らしていたCに対し、同月(2022年1月)上旬ないし中旬頃、E曹長につき、「伍長このままにしておいちゃいけないよね」「院長に言おうか」「文書のほうがいい」「言葉だと忘れられちゃうといけないから書面に書いて」などと虚偽の目的を告げ、E曹長への不満を書面にするよう求め、Cがこれを断ったところ、原告A自らが書面を作成することを申し出た。

  原告Aは、Cの面前で、パソコンを使って、C作成名義の答申書を作成した。その際、Cは「威圧的に」「精神的苦痛」「恫喝」の表現につき、「これは大袈裟です」と言って訂正を求めたが、原告Aは「いいんだよ」「こういうのはインパクトが大事だから」などと言って、訂正に応じなかった。Nは、「幹部の方がそう言っているのだから、あくまで横病長(横須賀病院長)に意見を聞いてもらうためにものと認識しており、E曹長について懲戒処分を求めるためのものとは認識していなかったことから、内容に事実と異なる部分があることを認識していながら、署名および捺印をした。

(被告国の答弁書より)

 「内容に事実と異なる部分がある」との主張の裏付けとして、国側は海上幕僚監部服務室が作成したあらたなC3曹の答申書を証拠提出している。
  

 海幕作成版のC3曹長の答申書(令和4年3月24日付)

※読みやすいように趣旨を損なわない程度に字句に手を入れています)

 私は、E曹長は日頃から指導に熱が入るとつい行き過ぎた言動を受けたり、見たりするので、同郷であるA2尉に相談していました。A2尉は、自分がいなくなると(異動するとの意味)相談を聞けなくなるので、これを機に病院長に聞いてもらったほうがいいと言われました。
 Aが作成した答申書には「威圧的に何度も」「無理やり強要され」「怒鳴りこんで」「威圧的な言葉や恫喝を受け、威圧感と精神的苦痛を受けました」等の誇張した表現がありましたが、私は病院長にお願いすると聞いていたので署名しました。
 事実をあらためて説明します。

  以下、海幕作成のC3曹答申書には、具体的な説明がつづく。

 ①R3(2021)年8月ごろ。
 E曹長から「時間あるときに先任伍長室に、話を聞きたいので来てください」と言われ、13時ごろ、部屋に行きました。E曹長は「指導時刻※のことだけど、指導時刻についてどんなものか認識しているのか、あなたのやったことは懲戒処分の対象だぞ」と大声で言いました。私が「何でですか。私は懲戒処分したいのですか?」と言うと、E曹長は「そうだ、処分だ」と大声で繰り返し答えました。私は「指導時刻とは帰隊時刻※とちがって処分の対象ではなく、その時間までに帰隊すればいんです。他の部隊にはありませんよ」と言いましたが、E曹長は「事の重大さがわかっているのか」と大声で言ってきました。私は「その経緯を文書に書いてください。それを持って横監(横須賀総監部)の服務に訴えます。それでもダメなら内局に訴えます」と言いました。するとE曹長の声のトーンが下がり、結局「皆に示しがつかないから指導時刻を遅延する許可の書類を作成して」と書類を作成させられました。
 帰隊時刻を遅延したわけではないのに、内容が帰隊時刻を切ったかのように書かねばならなかったのは嫌でした。大声で言われたことと、帰隊時刻を遅延したとまちがった許可申請書を作成させられたことは嫌でした。 
  
※指導時刻=定時の出勤時間(帰隊時刻)よりも早い時間に出勤するよう指導すること。営内者(駐屯地内の宿舎にいる隊員)が対象。C曹長は営外から通勤していた。
  
 ②R3(2021)年9月、午前7時半ごろ。
 管理当直中、急患対応とコロナ患者発生の対応を●2尉としていたときのことす。2件同時だったので非常に忙しく、病院長の出迎えに間に合いませんでした。
 7時40分ごろ、あわただしく患者対応をしているとき、E曹長が大声で怒鳴りながら「なんで病院長が登庁するのに出てこない? 何をしているんだ!」と言ってきました。私が「急患とコロナの対応中なので出られませんでした」と言いましたが、E曹長は「そんなことより病院長の出迎えが優先だろう。手を止めろ」と大声で言って叱責し、患者対応を強制的にやめさせした。
 私は管理当直業務として患者対応をしていただけです。しかも当直につくにあたり患者対応を優先するよう指導されています。管理当直業務や医事課業務に影響するのでこのようなことはやめてほしいです。

 C3曹の海幕作成版答申書の最後にはこんな文言が記載されている。

 今回のような内容ならば署名していませんし、E曹長もいろんな人に指導されて最近改善されてきています。私としては今ごろなんで?という感じですし、今回のことははっきりいって迷惑です。E曹長にはこのままいい状態を保っていただければ処分等は望みません。

  C3曹が海幕の調査に応じて作成したあらたな答申書と、A2尉が聞き取る形で作成した当初の答申書を比べると、それぞれに記載されたE曹長の「問題行動」自体はほとんどかわらないようにみえる。違いがあるのは「威圧」「恫喝」「精神的苦痛」といった主観的な表現部分だ。それらが「内容に事実と異なる部分」ということらしい。

 なお、海幕作成版答申書には「(懲戒)処分等は望みません」などの記述があるが、A2尉作成のC3曹の答申書のほうには懲戒処分を望むといった記載はない。したがってこの点については「内容に事実と異なる」ことにはならないだろう。

(つづく)
■取材費カンパのお願い  

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です