第1部 「海自・先任伍長のパワハラ告発したら逮捕された!」事件(11)

あらすじ

 中堅幹部隊員によるパワハラ的行為を告発をしたところ、調査がなされるどころか「虚偽告訴」だとして警務隊に逮捕される――まさに「物言えば唇寒し」と言わんばかりの事件が海上自衛隊で起きている。逮捕されたのは元隊員と現職2等海尉で、数日で釈放され不起訴(嫌疑なし)が確定した。警務隊の逮捕は、不当な逮捕権の請求・執行だとして、被害者の2人が国を相手に国賠訴訟を提起したのが2023年4月。約2年に及ぶ横浜地裁での審理を通じて浮かび上がってきたのが、パワハラを隠蔽し、組織に都合の悪い告発者に「報復」すべく工作がはかられ、逮捕もその一手段として乱用された疑いだ。折しも、戦争中のウクライナ軍との合同演習に海上自衛隊が密かに参加していたことが発覚した。自衛隊の暴走はとどまるところを知らない。

前回につづく

警務隊は「弁護士選任権」を知らずに捜査?

 訴状の訴えの要点は、1「違法に逮捕状を請求して逮捕した行為」のほか、2「警務隊が逮捕時に弁護人選任権を適法に告知しなかった」というものがある。訴状から引用する。

 海上自衛隊警務隊は、原告ら(A2尉とB元3曹)に対し、逮捕時に「弁護士は『知っていたら』呼ぶことができる」という誤った教示をしている。原告Aはたまたま知り合いの弁護士がいたために呼ぶことができたが、原告Bは知り合いの弁護士がいなかったため、上記説明を受けて弁護士を呼ぶことができなかった。
いうまでもなく、弁護士選任権の教示は弁護士選任権(憲法34条)の出発点であり、刑事訴訟法203条3項は、弁護人選任の「申出先を教示しなければならない」と規定している。しかるに、被告は本件でこれを怠った。

 A2尉を、逮捕と同時に閑職に異動させて、なにも仕事を与えないで終日過ごすという処遇をしたことについては、3「違法な異動と異動後の不法行為」だとして訴えている。

 原告Aは、令和4(2022)年9月27日(逮捕当日)に、横須賀基地業務隊補充部付員への異動を命じられていた。そこでは、午前7時から午後4時45分まで、暖房もない狭い小部屋でただ椅子に座り一日を過ごすことを命じられている。何の仕事も与えられていない。原告Aは、異動前は●●(東京の自衛隊医療施設での医療職)という職にあったにもかかわらずである(なお前職の勤務開始時間は午前8時30分であった)。これは厚生労働省が規定するパワハラ6類型のうちの「過小な要求」「人間関係からの切り離し」に該当する。

 さらに、B元3曹について、4「職場で任意同行を求めたこと」や、弁護人との信頼関係を損なわせるような言動を警務隊が行ったとして、5「弁護人選任権の侵害」を訴えている。

 原告Bは、令和4(2022)年10月上旬頃、自らの弁護人として訴外弁護士R弁護士を選任した。

 訴外R弁護士は、原告Bから、「警務隊から、10月16日に出頭してE氏(先任伍長、曹長=パワハラの加害者としてBさんが告発した人物)への謝罪を強要されている」という話を聞いた。訴外R弁護士は、パワハラの被害者がパワハラの加害者に謝罪させられそうになっているという異常な構図に驚愕し、同月14日、横浜地方検察庁横須賀支部検察官および海上自衛隊警務隊に対して、その中止を申し入れる申入書を送付した。

 それに対し、警務隊の取調担当官は、訴外R弁護士に対し、出頭しないことについて原告Bの意向を直接確認したいと申し向けた。訴外R弁護士は、意向を確認するのみであれば構わないと考え、これを了承した。ところが警務隊の取調担当官は、原告Bに架電し、同人に対し、「弁護人の申入書の内容がおかしい」「弁護人の申入書を見てほしいので、自宅にいく」等と申し向けた。さらに、取調担当官の一人が電話を替わり、原告Bに対して「来れないか」等と繰り返し申し向けた。

 原告Bから、上記電話について直ちに報告を受けた訴外R弁護士は、上記の対応について口頭にて警務隊に抗議した。さらに原告Bは警務隊に直接架電し、16日の取り調べは出頭しないと明確に述べた。これに対して警務隊の取調官は原告Bに対し、「その弁護士はおかしいぞ」「FAXされてきた文書はめちゃくちゃだ」「弁護士替えたほうがいい」等と申し向けた。

 さらに警務隊の取調官は、原告Bに対し、同人の母親に対し「(息子に)素行の悪い弁護士がついている」「弁護士とは思えないような人だからやめた方がいいです」等と申し向けた。

 警務隊のこれらの行為は、原告Bと訴外Rの弁護人選任権を侵害するものであって、違法であることは言うまでもない。

 警務隊や海上自衛隊による1〜5の各行為によって、AさんやBさんは精神的に辛くなり、抑うつ状態に陥り、それぞれ適応障害と診断された。国は国家賠償法上の損害賠償責任を負うとの訴えである。
 
 (つづく)

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