第1部 「海自・先任伍長のパワハラ告発したら逮捕された!」事件(8)

あらすじ

 中堅幹部隊員によるパワハラ的行為を告発したところ、調査がなされるどころか「虚偽告訴」だとして警務隊に逮捕される――まさに「物言えば唇寒し」と言わんばかりの事件が海上自衛隊で起きている。逮捕されたのは元隊員と現職2等海尉で、数日で釈放され不起訴(嫌疑なし)が確定した。警務隊の逮捕は、不当な逮捕権の請求・執行だとして、被害者の2人が国を相手に国賠訴訟を提起したのが2023年4月。約2年に及ぶ横浜地裁での審理を通じて浮かび上がってきたのが、パワハラを隠蔽し、組織に都合の悪い告発者に「報復」すべく工作がはかられ、逮捕もその一手段として乱用された疑いだ。折しも、戦争中のウクライナ軍との合同演習に海上自衛隊が密かに参加していたことが発覚した。自衛隊の暴走はとどまるところを知らない。

、前回からのつづき)

「虚偽告訴容疑」――晴天の霹靂その2

 2022年9月27日朝、0B元3曹が虚偽告訴容疑で警務隊に連行、逮捕されたのと同じころ、A2尉の職場である都内の自衛隊病院にもなんの前触れもなく警務隊員が訪れ、Aさんを逮捕した。容疑はBさんと同じ虚偽告訴容疑。つまり、E曹長に関する虚偽の内容の答申書や懲戒処分申立書を作成したというものだ。
 
 Aさんは逮捕されて横須賀警察署の代用監獄に勾留される。事前に警務隊から事情を聞かれたことは一度もない。寝耳に水の衝撃的な出来事だった。警務隊から取り調べを受けたが、その際、弁護士選任に関する説明の仕方は、Bさんのときと同様に不十分かつ不正確なものだった。取り調べに対しては、否認または黙秘した。さらには、高血圧の薬が必要だと訴えたところ、処方を受ける目的でわざわざ元の職場だった自衛隊横須賀病院を受診させ、手錠をかけた姿を元の同僚や部下に見せるという嫌がらせめいた仕打ちも受ける。
 
 当時の様子についてAさんは陳述書で次のように述べている。なお、意味を損なわない程度に字句を補っている部分がある。

 …嘘など書かせていないことなどすぐに証拠を出すことができたにも関わらず、私に話を聞かずに突然逮捕したのです。
  逮捕時には、警務隊に、弁護士は「知っていたら」呼べるから、と言われました。当番弁護士制度の説明もありませんでした。私は、たまたま知っている弁護士がいたので呼ぶことができました。
 また、逮捕された際に常備薬の血圧の薬がなく、無理やり内服薬をもらうために横病(自衛隊横須賀病院)を受診させられました。私は周りの目があるので横病だけは嫌だと言ったのですが、「副院長ひとりで対応することを約束する」と警務隊のZ3佐から言われ、手錠をかけられたまま受診をさせられました。しかし、副院長ひとりで対応するというのは嘘で、看護師も同席していました。病院では、Aが逮捕されたという話が、報道もされていないのに広まってしまいました。(検事の勾留請求なしに)9月29日に釈放されたにも関わらず、ほとんどの衛生関係の人間は私が逮捕されたことを知っています。

 逮捕3日目の9月29日、Aさんは検察官の取り調べを受けることなく釈放された。だが、すでに本来帰るべき職場はなかった。逮捕されたのと同じ27日付で異動の辞令が出ていた。なんの予告もない突然の辞令だった。新しい「職場」は横須賀基地業務隊補充部。そこで与えられた「仕事」とは、怪我や病気で艦船を降りた隊員数人とともに、暖房のない小部屋の中でただ終日座り、無為に過ごすこと。まさに「パワハラ」そのものだった。

 暖房も備品もない場所で一日中凍えながら、ただ、座らせられているだけの日々になりました。9月29日から現在(陳述書の作成日の2023年2月1日)に至るまで変わっていません。もともと午前8時から午後4時45分までの勤務だったのが、理由も告げられず、午前7時までに出勤するように命令されています。午前7時に出勤後は、小部屋に仕事用の机などが備え付けられていないので、壁沿いに置いてあるプラスチックの椅子に座って、暖房もない中、ただ時間が過ぎるのを待っています。そんな生活がもう4か月も続いています。

 Aさんは、Bさんとともに2022年12月に不起訴処分となり、以後は虚偽告訴容疑での取り調べの必要はなく嫌疑は完全に晴れた。しかし、職場での取り扱われ方は「容疑者」然としたままで、著しく名誉を傷つけるものだった。人事評価に関する手続きをしなかったり、自衛官診療証(保険証)発行手続きを長期間放置するといったこともあったという。

 不当な異動により人事評価の自己評価をさせてもらっていないこと、及び、人事評価の期末期首面談も実施してくれないこと(人事評価は、昇任・昇給・ボーナスに関わる大事な書類です)や、9月末に異動させられたにも関わらず12月中旬ごろまで自衛官診療証(保険証)の発行手続きすらしてくれなかったことなど、人事上や健康管理面でも不当な処遇を受けています。

  やがてAさんは心身に不調をきたす。苦悩する様子が陳述書に生々しい。

 このような不当な取り扱いを受けたり、突然逮捕されてしまった日のことを思い出して、眠れない生活が続いています。人間不信に陥り、自宅でパニックに陥ることが増えてきました。不起訴処分が12月中旬に出てすぐ、今の部署(補充部)の係長に不起訴を伝え面談をしてもらいました。(中略)。しかし、12月末になっても何も状況は改善されませんでした。そのため、精神的におかしくなって、眠れなくなり少しのことでパニックになったり激怒するようになったと自覚したため、精神科を受診をしたところ、適応障害の診断を出されました。極度の鬱状態にあるという検査結果で、内服治療をすることになり、現在も通院中です。

 精神科の治療とあわせて高血圧の治療も必要だった。Aさんは自衛官なので、自衛隊病院を受診すれば医療費はかからない。だが、Aさんは自衛隊の病院にはいきづらかった。逮捕中、手錠を掛けられたまま自衛隊横須賀病院に連れていかれたことが原因で、自衛隊病院の関係者はAさんが逮捕されたことを知っているからだ。やむなく、自費でほかの病院を受診せざるを得なかった。
 
 いったい、警務隊はなぜAさんやBさんを逮捕したのか。考えられる理由について、Aさんは陳述書の最後でこう述べている。
 
 「今回私が逮捕されたのは、パワハラ問題がをもみ消すためだと考えています。被告(国)には、事実関係を認めた上で、謝罪し、私を元の職場に戻していただきたいと思います」
(つづく)

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