第1部 「海自・先任伍長のパワハラ告発したら逮捕された!」事件(7)

あらすじ

 中堅幹部隊員によるパワハラ的行為を告発をしたところ、調査がなされるどころか「虚偽告訴」だとして警務隊に逮捕される――まさに「物言えば唇寒し」と言わんばかりの事件が海上自衛隊で起きている。逮捕されたのは元隊員と現職2等海尉で、数日で釈放され不起訴(嫌疑なし)が確定した。警務隊の逮捕は、不当な逮捕権の請求・執行だとして、被害者の2人が国を相手に国賠訴訟を提起したのが2023年4月。約2年に及ぶ横浜地裁での審理を通じて浮かび上がってきたのが、パワハラを隠蔽し、組織に都合の悪い告発者に「報復」すべく工作がはかられ、逮捕もその一手段として乱用された疑いだ。折しも、戦争中のウクライナ軍との合同演習に海上自衛隊が密かに参加していたことが発覚した。自衛隊の暴走はとどまるところを知らない。

前回からのつづき)

「虚偽告訴容疑」――晴天の霹靂その1

 自衛隊横須賀病院で先任伍長を務めるE曹長のパワハラ的行為を告発する告発状を、B元3曹はA2尉の協力を得て作成し、海上幕僚監部と横須賀総監部に郵送したのは2022年2月のことだ。海幕服務室M3佐の「添削」に従って体裁を修正し、自分の答申書については、より具体的な記述にあらためた上で、3月10日に再度郵送した。
 
 Bさんが自衛隊を辞めたのは、音楽の道に進む夢を追いたかったからだ。当面の収入源として老人ホームでの介護職についていたが、近く芸能プロダクションのオーディションを受ける予定になっていた。仕事に、夢に、忙しくしながら半年が過ぎた。

 何の前触れもなく、海上自衛隊の警務隊員がBさんの職場にやってきたのは9月27日午前のことだった。Bさんが後の裁判で証拠提出した陳述書には、このときの出来事について次のように述べられている。

 なお、読みやすくするため、文意を損なわない程度に字句を修正し、また言葉を補った。

 逮捕当日(2022年9月27日)は、私は、老人ホームでの勤務のため、8時40分ごろに出勤しました。通常どおり勤務していると、老人ホームの施設長より「お客さんが来ている」と告げられ、会議室に行きました。そこには2名の警務隊員がいて、「話が聞きたいから警務隊まで来てほしい」と言われました。勤務中であった私は、着替え荷物を取るために更衣室へ行き、着替えましたが、警務隊員は更衣室の中まで入ってきて、私の着替えや仕事の片付け等を1メートルもないくらいの距離まで近づいて見ていました。また、施設の外にも2名の張り込み(要員)がついていました。私にベッタリとくっつく警務隊の不審な行動や張り込みの様子を見た職員が居たため、後に噂となりいじめのきっかけともなりました。 

 着替えを終えると、Bさんは警務隊員らに伴われて車に乗せられた。陳述書はこう続く。

 車に乗せられた私は、自宅の案内をしてくれと頼まれ、自宅へと向かいました。そして家宅捜索を受けました。令状は読まれましたが、なぜ家宅捜索をされているのか、何が起きているのかまったく理解できず、質問しても「心当たりあるだろ、もう説明受けていると思うから改めては言わない」と言われました。部屋中荒らすだけ荒らされ、わけがわからないまま警務隊へと連れていかれました。着くなりすぐに昼食を食べてくれと言われ、昼食後、逮捕状を読まれ逮捕となりました。

 Bさんによれば、晴天霹靂の事態に動転するBさんに、警務隊員は「知り合いの弁護士がいたら呼べるけど、どうする?」と言ったという。当番弁護士制度はおろか弁護士選任権についての説明もなかった。このとき、Bさんには弁護士の知り合いがいなかった。刑事訴訟法の知識もない。警務隊員の言いなりに、弁護士に相談することはできないものとばかり思い、まったくの無防備で取り調べを受けることになった。

 
 E曹長に対する懲戒申し立ては虚偽だ、虚偽告訴罪である――それが家宅捜索の理由であり逮捕容疑だった。E曹長に、当直を余分につけられたり、部下を殴って看護師に縫わせたことがある、などといった脅迫めいたことを言われるなど、パワハラ的な言動を受けたことはまぎらもない事実だ。なぜ虚偽告訴になるのか、意味がわからなかった。
 
 浦賀警察署の代用監獄で3日過ごし、釈放された。検察官はなんら取り調べをせず、勾留延長の申請もしなかった。後に不起訴が確定する。
 
 はたして、老人ホームの職場に戻ったBさんを待っていたのはイジメだった。
 
 「なぜ犯罪者と働かなければいけない? 犯罪者と働きたくない。謝罪しろ、やめてしまえ」
 
  そんな心ない罵声を浴びせられた。また、無視されるといういじめも受けた。Bさんは気づいていなかったが、警務隊員はあらかじめBさんの自宅や職場を張り込んだり、聞き込みをしていた。Bさんのあらぬ悪評をそれとなく広げてしまっていたのだ。

 取り調べでは、Bさんが夢みていた音楽の仕事について、「音楽で食っていくなんて君には無理なんだから」などと侮辱的な言葉も浴びせられ、自尊心を傷つけられた。 

 釈放されたBさんに対して、在宅での取り調べが続いた。身に覚えがないとBさんは繰り返した。どういうわけか、刑事手続きについて権限がないはずの海幕服務室からも取り調べを受けた。そのときの様子がBさんの陳述書に記載されている。
 

…(海幕の)物であふれているような倉庫に連れていかれ、海幕服務室のM氏(3佐)から聴取されました。事実を話してほしいと言われましたが、前回(警務隊に)お話したとおり(答申書は)すべて事実であるため、前回と同じようにこれまでの経緯をお話ししました。(中略)M氏に、どこが虚偽に該当したのかと問うと、Aさん(A2尉)の名前がひとつもないのに、Aさんが作成していたこと※、申告者の住所がちがうことが虚偽であると説明されました。また、ここだけの話だが、E曹長は去年も一般人から同様のパワハラでタレコミがあった、と私に教えてくれました。

※自衛隊法施行規則第68条は「何人も、隊員に規律違反の疑があると認めるときは、その隊員の官職、氏名及び規律違反の事実を記載した申立書に証拠を添えて懲戒権者に申立をすることができる」と規定している。

 E曹長によるパワハラの被害者が何人も声をあげているにもかかわらず、上層部の隠蔽工作で握りつぶされようとしている。Bさんの不信感は募った。また、警務隊の捜査情報が海幕に漏れているのではないか。M3佐の言動からBさんはそんな疑いも持った。
 
 警務隊のやり方にはとうてい納得ができなくなったBさんは、A弁護士に委任した。すると警務隊は常軌を逸した行動に出る。Bさんの陳述書の続き――。

 弁護士を依頼したとわかったとたん、警務隊が私に電話してきて「君の雇った弁護士、とんでもないぞ。このままでも(弁護士なしでもという意味=筆者注)問題なかったのに、なんで頼んだんだ。こんな弁護士いますぐにでもキャンセルできし、やめたほうがいい。こんなことに時間を掛けたくないし、お互い忙しいからどうにかできないか」等、弁護士介入を取りやめるよう説得してきました。さらに、母親にまで電話をして、「素行の悪い弁護士で、到底弁護士とは思えないような人なので、お金もかかるし、そんな人に弁護を頼むのはやめたほうがいい」と言いました。

 弁護士を解任するようBさん本人だけでなく、Bさんの母親にまで干渉してきたのだという。弁護士選任権の侵害だとして、後の国家賠償請求訴訟での重要な争点のひとつとなる。
(つづく)

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