第1部 「海自・先任伍長のパワハラ告発したら逮捕された!」事件(5)

あらすじ

 中堅幹部隊員によるパワハラ的行為を告発をしたところ、調査がなされるどころか「虚偽告訴」だとして警務隊に逮捕される――まさに「物言えば唇寒し」と言わんばかりの事件が海上自衛隊で起きている。逮捕されたのは元隊員と現職2等海尉で、数日で釈放され不起訴(嫌疑なし)が確定した。警務隊の逮捕は、不当な逮捕権の請求・執行だとして、被害者の2人が国を相手に国賠訴訟を提起したのが2023年4月。約2年に及ぶ横浜地裁での審理を通じて浮かび上がってきたのが、パワハラを隠蔽し、組織に都合の悪い告発者に「報復」すべく工作がはかられ、逮捕もその一手段として乱用された疑いだ。折しも、戦争中のウクライナ軍との合同演習に海上自衛隊が密かに参加していたことが発覚した。自衛隊の暴走はとどまるところを知らない。

 (前回からのつづき)

狙われた答申書その3

 B元3曹、C3曹(女性)に続き3人めの答申者は女性隊員のD士長である。Dさんの答申書に記載された内容は、B元3曹と同様に当直関連だ。家庭の都合で当直に入れくなった、勤務シフトを変更してほしい――と先任伍長のE曹長に要望したところ、けんもほろろに断られたという訴えが次のように記載されている。

【D士長の答申】

令和4(2022)年1月24日

自衛隊横須賀病院長・海将補XX殿

答申者・D

  答申書

 私は、令和2年(2020)12月中旬ごろ、■■(配偶者の転勤=筆者注)が決まったため、既に決まっていた1月の当直を免除してもらう申請を先任伍長室のE曹長に相談に行きました(当直に入ると子どもの面倒をみる者がいなくなる)。E曹長は「Dは当直をずらして休暇を長く取っていたよな。自分は当直をずらして休むくせに当直立てませんはおかしいだろ」と強い口調で言われたため、その時は一度話を持ち帰り、代替案を考えることにしました。
 なお、当直をずらした際は、配偶者の■■(転勤)は決まっていませんでした。2年ほど帰省していない九州の実家に帰るため、連続して休みが取れるように当直交代をしたのです。
 (代替案について)周囲に相談したところ、会計課の●2曹とC3曹が「私たちが当直をもらってあげるよ」と言ってくださったので、そのことを伝えに再度先任伍長室を訪ねました。前回、先任伍長室に1人で相談に言った際には、E曹長に威圧的に怒鳴られたので、1人で行くのが怖くなり企画室のH事務官に、いっしょについてきてくれるよう頼みました。
 再度の相談では、E曹長から「誰かに代わりに(当直に)立ってもらうのは甘えている」と言われました。また「Dは海士としての仕事ができていない。役割を果たしていない。見ていてそう思う」などと当直に関係ないことまで強い口調で威圧的に言われました。私は「既に交代者を見つけており、交代者も納得してくれている」とEと曹長に言いましたが、「俺はいいけど、他の人たちは納得しないぞ」と威圧的に強く言われました。一方で私の言うことはすべて強い口調で否定され、私の話はまったく聞き入れてくれなかったです。
 さらには、E曹長から「Dが正月三が日に立直するなら文句は言わない」と半ば脅迫するように言われたため、実家へ帰る航空券(宿泊代もあわせて10万円以上)を家族全員分キャンセルし、1月2日に立直しました。キャンセルは、搭乗日まで日にちがなかったため、半分も帰ってきませんでした。
 先任伍長の要求どおり三が日に立直したため、その後何も言われることはありませんでしたが、廊下などでE曹長に呼び止められると、何を言われるのだろうと怖くていつも萎縮してしまうようになりました。上記の件を相談した際には、私自身を否定する発言が何度もあったため、自信を喪失し、退職を強く考えるきっかけの一つになりました。
 上記のとおり相違ありません。

  4人めの答申者は、D士長につきそって先任伍長室を訪れ、D士長とE曹長の会話を聞いていた女性事務官Fさんだ。

 【F事務官の答申】

令和4(2022)年1月24日

自衛隊横須賀病院長・海将補XX殿

答申者・F

  答申書

 私、F事務官は令和3※年12月中旬ごろ、D士長から、当直免除申請の件で先任伍長の所に行くので(先任伍長室まで)ついてきてほしいと頼まれました。理由を聞くと、先任伍長はいつもD士長には威圧的なのでひとりで行くのが怖いからということでした。
 私はD士長と2人で先任伍長室に入り、2人の話を聞いていました。当直免除申請したいという話をD士長がしたところ、先任伍長は「なんでひとりで来ないんだ」と言いました。私は、黙っていたのか、なにか答えたのか覚えていません。
 D士長が当直免除申請のため家庭の事情を説明したところ、先任伍長はD士長の言っていたとおり、威圧的な口調及び表情で「俺はいいけど、その態度だったら周りは許さないぞ。自分でどうにかする努力はしたのか? まずは当直交代でなんとかするとかして、当直の交代者は自分で見つけろ」と威圧的に言われていました。また「Dは海士としての仕事もできていない。役割を果たしていない。見ていてそう思う」などと威圧的にD士長の人格を否定するような発言もしていました。D士長は「当直交代も考えていて、交代する場合は会計課の●2曹かC3曹に交代してもらうように調整ずみです」と言っていました。しかし先任伍長は「だめだ」と言いました。さらに強い口調で「もうちょっと他の方法を考えてこい」と言っていました。さらには「1月の三が日に当直するなら文句は言わない」と言っていました。私はその話を隣で聞いていて、D士長がE曹長に脅迫されているように感じました。そこで話は終わりました。
 先任伍長室を出てすぐに、D士長がすごく怯えながら落ち込んでいて「もう仕事辞めたい」と口にしました。私はD士長が仕事を辞めたいとまで言うのは初めて耳にしました。
 私はその時のD士長の様子を見て、退職することまで口にし、E曹長の威圧的な言葉づかいや脅迫的な言動に恐怖感を覚えていたように見受け、非常にかわいそうになりました。
 上記のとおり相違ありません。 

 ※なお、読みやすくするため、趣旨を損なわない範囲で、改行、句読点の修正、漢字をかなにする、注釈の加筆、わかりにくい表現の最小限の修正等の変更をしている。
 
 (第6回につづく)

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