あらすじ
中堅幹部隊員の先任伍長によるパワハラ的行為を告発したところ、調査がなされるどころか告発した側が「虚偽告訴」だと非難され、犯罪の嫌疑をかけられて警務隊に逮捕される――まさに「物言えば唇寒し」と言わんばかりの事件が海上自衛隊で起きている。逮捕されたのは元隊員と現職2等海尉で、数日で釈放され不起訴(嫌疑なし)が確定した。警務隊の逮捕は、不当な逮捕権の請求・執行だとして、被害者の2人が国を相手に国賠訴訟を提起したのが2023年4月。約2年に及ぶ横浜地裁での審理を通じて浮かび上がってきたのが、パワハラを隠蔽し、組織に都合の悪い告発者に「報復」すべく工作がはかられ、逮捕もその一手段として乱用された疑いだ。折しも、戦争中のウクライナ軍との合同演習に海上自衛隊が密かに参加していたことが発覚した。自衛隊の暴走はとどまるところを知らない。 |
3 狙われた「答申書」その2
不当に多い回数の当直をつけられるなど先任伍長のE曹長から「パワハラ行為」を受けたという訴えをB元3曹から聞きとり、本人名義の答申書を作成したA2尉は、E曹長がほかの隊員に対してもパワハラ的な行為を働いていることを知った。そこで、彼らについても答申書を作成することにした。
B元3曹に続いて2人目は自衛隊横須賀病院に勤務する医療職の女性自衛官C3曹だ。2022年1月24日付で、本人名義で次の内容の答申書を作成した。作成要領はBさんのときと同様、Aさんが聞き取って文章化し、本人が確認してから署名・押印した。C3曹の訴えは2件あったので、2通作成した。
【C3曹の答申】(その1)
令和4(2022)年2月4日 自衛隊横須賀病院長・海将補XX殿 答申者・C 答申書 |
※1 所定の定時よりも一定時間早く出勤しなければならないという「指導」。
※2 基地の外に在住し、通勤する隊員のこと。営内者とは基地内の宿舎や艦艇で生活している隊員のことをさす。
【C3曹の答申】(その2)
令和4(2022)年2月4日 自衛隊横須賀病院長・海将補XX殿 答申者・C 答申書 私は、令和3(2021)年9月、07時30分頃、管理当直についており、急患対応とコロナ患者発生のための対応を当直官の●2尉としていました。2件同時の対応だったため非常にあわただしく、そのため、病院長の登庁の出迎え(※3)に間に合いませんでした。 |
※3 病院長が病院の玄関から出勤する際に当直員らが扉を開けて出迎える習慣。
毎日定時よりも早く職場に入っていたが、それでも遅いという理不尽な指導を受けた。また、当直が明けた早朝、患者対応に追われていて病院長の出迎えに行けなかったことについて、理不尽な指導を受けた。A2尉が聞き取って文章化する方法で作成した答申書によれば、これらがC3曹の訴えである。
なお、読みやすくするため、趣旨を損なわない範囲で、改行、句読点の修正、漢字をかなにする、注釈の加筆、わかりにくい表現の最小限の修正等の変更をした。
(第5回につづく)
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