「日本科学者会議第25回総合学術研究集会 in 東海」での発表要旨

  読者のみなさま、こんにちは。

 大内裕和・武蔵大学教授による研究不正事件(盗用・捏造の疑い)は、文科省ガイドラインにしたがって公正な調査をすべき大学が、あろうことか隠蔽をはかった疑いが濃厚となっています。12月23日14時から東京地裁614号法廷で、中京大学と武蔵大学を相手取った損害賠償請求訴訟の第6回口頭弁論があります。一人でも多くの方の傍聴をお待ちしています。

 さる11月30日、「日本科学者会議第25回総合学術研究集会 in 東海」がオンラインで開催され、私も大内教授の研究不正に関する論考を発表しました。

 要旨を転載します。

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【研究不正に関する私立大のずさんな調査に対する民事訴訟提起の試み――中京大学・武蔵大学との訴訟から】

三宅勝久、Miyake Katsuhisa(ジャーナリスト)

1.はじめに
 ジャーナリストである発表者は、大内裕和武蔵大学教授(前中京大学教授、以下「大内教授」という)によって著作を盗用されたため、中京大学と武蔵大学に対して、それぞれ研究不正にかかる告発を行った。しかし中京大学は予備調査の結果、「本調査不要」と結論、武蔵大学は本調査を実施したものの「特定不正行為にはあたらない」と結論づけた。
 そこで発表者は、両大学に対して民事訴訟を提起し、調査状況の解明と不十分な調査にかかる責任追及を試みた(現在係争中)。本稿は当該訴訟に関する報告である。 

2.告発内容と調査結果
 主な告発内容は次のとおりである。
① 盗用 大内記述1(『奨学金が日本を滅ぼす』の一部)が三宅記述1(『日本の奨学金はこれでいいのか』2章の一部と類似(図1−1)。
② 盗用 大内著作2(『日本の奨学金はこれでいいのか』1章、ほか多数)の一部が三宅著作2(雑誌『選択』記事)の一部と類似(図1−2)
③ 捏造 大内著作3(『奨学金が日本を滅ぼす』の一部内容(奨学金ローン利用者からの聞き書き)に論理矛盾があり、捏造・歪曲が疑われる(図1―3)。
・2020年9月 中京大学予備調査委員会は「本調査不要」と結論。(2)
・2023年7月 武蔵大学調査委員会は「盗用・捏造にはあたらない」と結論。(3)

3.著作権裁判
 発表者は、別途大内教授に対し、著作権侵害による損害賠償請求訴訟を起こしたが、三宅の著作は著作権法上の著作物ではないとの理由で請求は棄却された。(4)

4.提訴
 大学の調査の実態を明らかにする必要があると考えた発表者は、2024年3月、中京大学と武蔵大学を相手どった損害賠償請求訴訟を提起した。(東京地裁令和6年(ワ)6685号)。「文科省指針を逸脱した不十分な調査により告発を不当に退けられ、精神的苦痛を受けた。裁量権の逸脱が逸脱がいちじるしく民法の不法行為を構成する」との主張を行った。現在、裁判所は「指針等に照らして大学がやるべきこと行ったかどうか」争点だとして、審理を行っている。

5.訴訟による成果
(1)調査の不備・矛盾
 上記訴訟において被告中京大学は、現段階で、予備調査における大内教授の弁明状況を明らかにしていない。一方、武蔵大学は、一定程度大内教授の弁明状況を明らかにした。それによれば、調査がずさんさだったことが明白となった。
 まず、大内教授から提出された資料類はすべて事後に入手可能なもので、研究ノート、構想メモ等はいっさい示されていないことが判明した。
 また、盗用・捏造を否定する大内教授の説明の信憑性を強く疑わせる事実が複数判明した。特徴的なものを列記する。
①「回収データ」問題
 大内記述1に債権回収に関する記述「2012年度の債権回収業務を担当した日立キャピタル債権回収株式会社は21億9545万3081円を回収し、1億7826万円を手数料として受け取っています」のデータ部分は三宅記述1と同じであり、盗用が疑われた。これについて大内教授は武蔵大学調査委員会(以下「調査委」という)に次の説明を行っている。
「…訴外大内が、原告の著作物に引用されていたJASSOの公表データを、JASSO作成の原典に当たることなく、自身の執筆に使用したことをヒアリングの過程で認めたため、それについての評価をなしたものである。」(被告武蔵大学準備書面1)
 調査委は上記説明を信用できるとして「孫引き」ではあるが盗用ではない、と結論づけた。しかし「JASSOの公表データ」は実在しない。調査委も確認していないとみられる。「原典」を確認していないのに「孫引き」と認定したことになる。
②「1兆円」問題
 大内記述2は発表者の三宅記述2(雑誌「選択」記事)とほぼ同一である。この点について大内教授は「「選択」記事は読んでいない。公表データをもとに記述した」と説明した。しかし、「選択」記事中「1兆円」との記述が誤りであり、正しくは「3800億円」であることが調査過程で判明、大内記述2にも「1兆円」とあることから誤記の一致をみることとなり、上記説明に疑義が生じた。
 この点について大内教授は調査委にこう説明している。
「日本学生支援機構に直接出向いて職員に確認した。10年前なので訪問日や担当者、部署名は忘れてしまった」(2023年3月10日、武蔵大学第3回研究不正行為調査委員会議事録)
 調査委はこれを信用できるものと認定した。
③「聞き取り」の記録が存在しない 
 大内記述3は、奨学金返済を延滞し、債権回収会社から少額弁済を求められたとする当事者からの聞き書きの記述であるが、内容に論理的矛盾があることから捏造が疑われているものである。これについて大内教授は調査委に次の説明を行った。
「奨学金問題に関する講演会、シンポジウムに参加された当事者の発言を忠実に再現している。当事者の発言をメモし、そのメモを元にして原稿化した」「…本文を読者に分かりやすく伝えるためのエピソードとして紹介したものであることから、メモや録音記録などの保存は行っていない。」(2023年1月9日付弁明書5頁)。調査委は上記説明を信用できると認定した。
(2)小括
 訴訟を通じて、大内教授は疑惑に対して根拠を示して説明することができていないことが明らかになった。同時に、武蔵大学の調査が、結論が先にありきのずさんなものであったことが判明した。

6.結論
 文科省指針を無視・軽視した調査であったことが訴訟を通じて解明されつつある。直接の利害関係にある大学が研究不正調査を担う現制度には構造的な欠陥があるが、公正さが疑われる調査に対する民事訴訟提起は一考の余地があろう。

図1−1〜1−3
https://miyakekatuhisa.com/%e3%80%8c%e4%b8%ad%e4%ba%ac%e5%a4%a7%e3%83%bb%e6%ad%a6%e8%94%b5%e5%a4%a7%e7%a0%94%e7%a9%b6%e4%b8%8d%e6%ad%a3%e8%aa%bf%e6%9f%bb%e5%95%8f%e9%a1%8c%e3%80%8d%e9%96%a2%e9%80%a3%e8%b3%87%e6%96%99/

引用文献
(1)「ジャーナリストの著作を研究者が“盗用”しても不問なのか?」(三宅勝久 Online-シンポジウム:深く広がる日本の研究不正 —「競争的環境」が生み出す没個性のお粗末な不正 2021年11月29日開催)
https://miyakekatuhisa.com/wp-content/uploads/2024/09/5ad243ff1169d5380b47cc78c54dcd56-1.pdf
(2)中京大学予備調査報告書
(3)武蔵大学調査報告書
(4)東京地裁令和3年(ワ)10987号
https://miyakekatuhisa.com/%e3%80%8c%e4%b8%ad%e4%ba%ac%e5%a4%a7%e3%83%bb%e6%ad%a6%e8%94%b5%e5%a4%a7%e7%a0%94%e7%a9%b6%e4%b8%8d%e6%ad%a3%e8%aa%bf%e6%9f%bb%e5%95%8f%e9%a1%8c%e3%80%8d%e9%96%a2%e9%80%a3%e8%b3%87%e6%96%99/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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