カテゴリー
未分類

神奈川県警「天下りリスト」黒塗りめぐる国賠訴訟が16日結審へ

 神奈川県警退職者の天下り先を知る手がかりである「求人票」(企業や法人から県に提出された文書)を県警に情報公開請求したところ企業名や法人名を黒塗りにした問題で、これが国家賠償法上違法だとして10万円の賠償を求めた裁判の口頭弁論が16日午後2時から横浜地裁502号法廷である。結審の予定である。

 県警は当初、法人名を開示すれば法人・企業の利益を損なうおそれがあるなどとして全面的に争っていた。しかし、東京や埼玉など他の自治体警察では開示している事実を突きつけると、裁判官から「開示を検討してはどうか」と”敗訴予告”がなされ、しぶしぶ自主的に開示をした。そこに至る過程では、一部非開示決定通知の内容に多数の誤りが見つかるという手続きのずさんさも露呈した。

 原告の筆者は、訴えのうち非開示処分の取り消しを求めた部分を取り下げた上で、国賠法に基づく慰謝料請求と訴訟費用の支払いを求める点は維持して裁判を続けた。”迷惑料”を回収する権利があると考えたためである。

 対する被告県は、▽開示非開示の判断は困難だった、▽文書量が大量でミスはやむを得なかったーーとして、国賠法上違法とまではいえない、仮に違法だとしても賠償するほどではないなどと反論している。

 結審にあたり、原告・筆者の最終準備書面を紹介する。

=====

令和3年(行ウ)第75号 情報公開非公開処分取消等請求事件

原告 三宅勝久

被告 神奈川県

準備書面5

2022年10月18日

横浜地方裁判所第1民事部御中

                 原告 三宅勝久  

            

第1 請求の趣旨第2項(国賠法にもとづく慰謝料請求)に関する主張

 1 事実経緯の概要

 原告が被告に対して損害賠償を請求するにあたり、前提となる事実は以下のとおりである。

① 2021年3月1日、原告は、神奈川県情報公開条例(以下「条例」という。甲1)に基づき、神奈川県警本部長(実施機関)に対して、県警職員の再就職にかかる求人票の開示を求める情報公開請求を行った。

② 2021年3月15日、実施機関(神奈川県警本部長)は条例10条4項に基づき決定期間を延長した。

③ 2021年4月30日、実施機関は、1140通の求人票(被告準備書面1)を対象文書として特定し、一部文書を除き、法人名などを非開示とする一部非公開処分を行い、原告に通知した(以下「本件第1処分」という)。(甲2)

④ 2021年10月29日、原告は、法人概要欄記載情報の非開示処分の取り消し、ならびに国家賠償法に基づく損害賠償を求めて訴訟を提起した(本訴訟)。

⑤ 2021年12月20日、本訴訟の第1回口頭弁論で、被告は請求棄却を求める答弁書を陳述した。原告は被告に対して開示対象文書全部の写しを提出するよう求めたが、被告は拒否した。

⑥ 原告は本件情報公開手続きを利用して開示対象文書全部の写しの交付を受け、訴訟準備を行った。

⑦ 2022年6月ごろ、原告が、実施機関から交付を受けた対象文書と決定通知を逐一つき合わせてみたところ、非開示理由の説明がない文書が複数あることが発覚した。原告の問い合わせに対して被告職員は調査する旨回答した。

⑧ 2022年7月1日付で、被告実施機関は本件第1処分にかかる決定通知の誤りを訂正した(甲17)。訂正か所は合計約60か所で、単純な誤記の類を除いても約50か所を数えた。うち、対象文書の特定自体がなかったものが少なくとも13件(文書の数)あった。原告が点検したところ、訂正後の決定通知にはなおも誤りがあった。(原告準備書面4)

⑨ 2022年7月12日、本訴訟の弁論準備手続きにおいて、裁判体から被告に対して、訴訟の争点である非開示部分を任意で開示する意向はないか打診がなされた。被告は検討する旨回答した。

⑩ 2022年8月30日付で実施機関は本件第1処分を一部取り消し、本訴訟の争点となっている非開示部分をすべて開示する一部非開示決定処分(以下「本件第2処分」という)を行い、原告に通知した(甲18)。当該通知書には、処分を一部取り消した理由について「当該非公開情報は、公表していない法人の電話番号等を除き、非公開情報に該当しないことから公開すべきである」と記載されていた。(甲19)

⑪ 2022年9月7日、本件第2処分により訴えの利益が消滅したため、弁論準備手続において原告は請求の趣旨第1項を取り下げた。

 2 違法性

(1)非開示処分の違法性

 被告実施機関が本件第1処分によって非開示とした情報は、求人票を作成した法人等の法人名や所在地、代表者名などである。これらの情報が条例の非開示情報にあたらないことは、被告も現在認めるところである。つまり、本件第1処分に瑕疵があることは明らかである。

 警視庁や埼玉県警など他の自治体警察はいずれも求人票に類する文書の法人名や代表者名、所在地を開示している(甲11、甲12)。これらが非開示情報に当たらないことを被告職員は容易に判断可能であった。しかしながら、被告職員は誤った非開示処分を行い、2022年8月30日まで約1年4か月の長期にわたって更正を行わなかった。ようやく誤りを更正したのは、本訴訟において裁判所から任意開示を打診された後であった。この間原告は、請求棄却を求める被告に反論するため多数の書面の作成を余儀なくされた。

 上に述べた事情を踏まえれば、被告職員は通常尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と職務を行なったというべきであり、国家賠償法1条1項上違法である。板橋区選挙管理委員会の誤った非開示処分をめぐって国賠法上の違法を認定した裁判例からも明らかである。(甲19)

(2)理由の付記義務違反

 被告職員は、情報公開の事務を行うにあたり、請求人に対して、対象文書を特定した上で非開示理由を説明する条例上の義務を負っている。しかしながら、本件第1処分の決定通知書には誤りが多数あり、理由説明がきわめて不十分であった。対象文書名の説明自体がなされていないものが13件(文書通数)もあった。

 これらの誤りが訂正されたのは、本件第1処分から約1年2か月後の2022年7月1日であった(甲17)。これは原告の指摘を受けた後である。

 情報公開の手続きにおいて実施機関が決定通知の内容を正確に記載しなければならないのは自明のことである。それにもかかわらず、被告職員は多数の誤りのある決定通知書を原告に交付し、かつ、原告から指摘を受けるまで1年以上も放置した。原告が訴訟を提起する前はもちろんのこと、提起後も自主的に誤りを更正する機会が常にあったにもかかわらず、それを行わなかった。

 これらの事情を踏まえれば、被告職員は通常尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と職務を行なったというべきであり、国家賠償法1条1項上違法である。このことは、日野市監査委員が行った情報公開一部非開示決定において理由の付記義務違反があったとして国賠法上の違法ならびに損害賠償を認定した裁判例からも明らかである。(甲20)

3損害

 被告職員らの上記違法行為により、原告は条例が保証する知る権利を著しく侵害された。同様に、非開示理由の説明を受ける権利を著しく侵害された。本訴訟を提起せざるを得なくなり、それによって精神的苦痛を受けた。原告の受けた損害は金銭に換算すると10万円を下らない。

第3 請求の趣旨第3項(訴訟費用は被告の負担とする)に関する主張

 原告は、2022年9月7日の弁論準備手続きにおいて請求の趣旨第1項を取り下げた。この理由は、同年8月30日付で被告が同項の請求対象となっている非開示処分をすべて取り消す処分変更(本件第2処分)を行ない、同項部分について訴えの利益が消滅したためである。当該非開示処分が条例の非開示情報にあたらないことは提訴前から明白であったのであり、第1項にかかる訴えの利益が本訴訟提起後に消滅し、取り下げに至ったことについて原告に責はない。原告が訴えを起こしたこと、及びこれに続く訴訟行為は、民事訴訟法62条の「原告の権利の伸張若しくは防御に必用であった行為」に該当する。よって被告に負担させるべきである。(甲21)

第3 結語

 以上のとおりであるから、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

以上