「奨学金制度、学費及びこれに関する学生支援制度についての調査研究」を活動目的のひとつに掲げながら、真摯に奨学金ローン問題を調査研究する者をその「真摯さ」由に排除するーーそんな、ある意味日本的といってもよい事件が起きている。
奨学金問題対策全国会議という任意団体がある。代表者のひとりは、私との間で著作権侵害をめぐる紛争になっている大内裕和武蔵大教授(今年4月までは中京大教授)だ。2019年7月、私がこの団体への再入会(なぜ再入会なのかについては後述する)を求めたところ、同会は拒否した。拒否の理由がふるっている。
三宅は「繰り上げ一括請求」という日本学生支援機構の債権回収方法を問題視する意見を持っており、入会すればそのことを熱心に主張することが予想される。それは会の活動に支障をきたす。だから再入会はお断りするーー。
そういう趣旨の回答を行った。この回答を受け取ったとき、私はにわかに意味がわからなかった。「奨学金問題」に関心のある者の集まりなのだから、多種多様な意見があるのは当然だ。繰り上げ一括請求を問題視する意見もそのひとつである。自由に意見を述べ、ときに議論をすることは、それ自体が「活動」ではないのか。
じつは、私はかつてこの会の会員だった。2013年3月に設立した当時、事務局から要請される形で入った。拙著『債鬼は眠らずーサラ金崩壊時代の収奪産業レポート』(同時代社、2010年)で「奨学金ローン」問題のルポを発表ずみだったので、協力を依頼されたという経緯がある。
そして、すぐに共著刊行の提案があり、執筆を要請された。多忙だったのでいったん断ったが、懇願されて引き受けた。引き受けたからにはいいものを書きたかった。過去に発表したものの焼き直しでは読者に申し訳ない。そこで最新の事情を探るべく取材に取り掛かった。「繰り上げ一括請求」はその過程で発見した問題である。違法な貸し剥がしを繰り返していることがわかったのだ。(詳しく知りたい方は『週刊金曜日』に連載中の「日の丸”ヤミ金”奨学金」をご覧ください)
拙稿「ルポ・奨学金地獄」を収録した共著『日本の奨学金はこれでいいのか』は2013年10月に無事刊行された。ルポのなかで「一括請求」問題を告発した。
奇妙な空気を感じたのはそれから間もなくしてからのことだ。全国会議は「一括請求」のことにまったくといいっていいほど関心を払わない。議論した上で比較的重要度が低いとの結論になったのならまだわかるが、議論自体が起きないのだ。この状態は3年近く続き、2016年1月、私は全国会議を退会した。同会が一括請求問題に目を向けるよう外部から批判する必要があると考えたからだ。
こうした事情で退会してさらに3年、全国会議がようやく一括請求問題に取り組み始めたことを私が知ったのは2019年7月。全国会議が同年5月に作成した「政策提言」の冊子のなかに一括請求問題への言及があった。これを読んだ私は、大きな前進があったと思い、再び全国会議に入会したい旨申し込んだ。
その結果は前述したとおりである。拒否だった。
全国会議の事務局長(岩重佳治弁護士)は2017年に『「奨学金」地獄』、大内裕和代表は同年『奨学金が日本を滅ぼす』という本を出版し、それぞれちゃっかりと一括請求問題に言及している(この事実を私が知ったのは再入会拒否のあとである)。それでいて、「一括請求問題」ばかり言うとして私を排除する。真摯に奨学金問題に向き合い、活動に協力してきた者に対するこの仕打ちは、一種の村八分、思想差別である。パワハラに通じるものがある。そういっていいのではあるまいか。
ちなみに、前述のとおり私は「ルポ・奨学金地獄」と題するルポを共著のなかで発表した。岩重事務局長の本のタイトル『「奨学金」地獄』はこれとよく似ている。また私は『日本を滅ぼす電力腐敗』という本も出版しているが、大内氏の『奨学金が日本を滅ぼす』もこれに似たタイトルだ。はたして偶然だろうか。
こちらとしては泣き寝入りするのは面白くないので、昨日、全国会議と大内裕和代表を被告として損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。ご注目いただけたら光栄である。