情報公開制度が日本の社会を民主的に運営する上できわめて重要であることは論を俟たない。しかし、行政機関によってしばしば明白に誤った運用がなされているのも事実である。こうした誤りを見逃していると早晩制度が壊れてしまいかねない。
去る10月11日、東京都板橋区選挙管理委員会の情報公開事務の誤りをめぐって国家賠償請求訴訟を起こしたが、これも上の考えに基づいてのことだ。
〈東京地裁・令和3年(ワ)26119号(民事49部)〉
昨年(2020年)9月23日、坂本健候補(現板橋区長)の区長選における選挙運動費用収支報告書を区情報公開条例にもとづいて情報公開請求したところ、選管は坂本氏本人以外の「個人名」を黒塗りにして「部分開示」した。これが問題の発端である。
選挙運動費用収支報告書の公開は、閲覧については公職選挙法に規定がある。公開を前提とした報告書であるからすべて閲覧することができる。筆者が情報公開請求したのは写しがほしかったためだ。
収支報告書の写しを手に入れるには情報公開条例を使う必要がある。写しが欲しい場合は条例を使う。これが定着した公開制度だ。
したがって、当然すべて開示したものの写しが交付されると思っていた筆者は、黒塗りだらけの報告書に驚いた。
「黒塗りはまちがいではないか」
再検討を促したところ、すぐに処分の訂正をする旨の連絡があった。これで全部開示されだろうと現物を見た筆者は再び驚いた。出納責任者の押印部分が黒く塗られたままだったからである。 犯罪防止のためだというのが区の説明だった。納得できない筆者は、行政不服審査法に基づいて印影黒塗りの撤回を求める審査請求を行った。2020年12月2日のことだ。
9ヵ月後の今年9月8日、審査庁である区長の諮問機関にあたる板橋区情報公開及び個人情報保護審査会は、印影黒塗りは「妥当ではない」とする答申を出した。しごく当たり前の答申である。
こういう場合は、答申が出る前か同時に処分の変更をするのがふつうだ。
ところが区選管は、答申が出てから1ヶ月以上が過ぎても印影黒塗りを是正していない。筆者が黒塗りの誤りを指摘してからはや1年以上がたっていた。明らかに間違った黒塗りをしたことの重大さを区は理解していない。そう思わざるを得なかった。
情報公開制度をないがしろにした行政の責任をうやむやにすべきではない――筆者はそう考えて訴訟を起こしたのである。
追って状況をお知らせしたい。