独立行政法人日学生支援機構の公的学生ローン(商品名「奨学金ローン=Scholarship loan」)に関する大内裕和武蔵大教授(奨学金問題対策全国会議代表)の最近の発言を見る機会があり、驚いた。学資不足の際には借り入れをためらうな、返済に窮したら自己破産や民事再生などの手続きをとればよい、といった趣旨のことを言っている。

問題の発言は、雑誌『家庭科研究』(家教連)2022年8月号に大内氏が発表した「奨学金問題の現状と家庭科教員への期待」と題する記事のなかにある。 気になった部分を抜粋して引用する。 (引用ここから) 奨学金問題の現状を踏まえ、家庭科教員に何が期待されているのかを論じたい。 (略) 奨学金を利用するか否か、利用する場合の額をどれくらいにすれば良いかについて、生徒一人ひとりの経済状況や進学先、アルバイトの厳しい状況を踏まえた上でアドバイスできるようになることが望ましい。ここで考慮しなければならないのが、近年広がっている貸与型奨学金を過剰に忌避する傾向である。 (略) 「貸与型奨学金は借金になるのだから、借金を避けるのは当然だ」と簡単に考えてはならない。 (略) 生徒の家庭の経済状況を見ながら、学費の支払いや仕送りなど、親・保護者からの経済的支援が困難なことが予想される場合には、貸与型奨学金の利用を勧めることをためらわないでほしい。 (略) 私は大学で学生たちに奨学金について教えているが、奨学金の返済に困った際に民事再生や自己破産といった「法的整理」が可能であることを、私から教わる前に知っている学生にこれまで出会ったことがない。奨学金返済に困った際に、法的整理によって返済額を減額したり、場合によってはゼロとすることが可能であることを知ると、学生たちは安堵した表情となることが多い。たとえば、「自己破産をしたら人生終わり」などという無知に基づいた偏見をなくしていく指導が求められるだろう。 (略) (引用おわり) 奨学金ローンは、「教育の機会均等」を実現するという建前のもと、資金のない若者に多額を貸し付ける制度だ。与信(返済能力の審査)はいっさい行わない。貸付額も数百万円と多額だ。こういうことは通常の金融機関では認められていない。 返済困難になることが想定される制度だから、払えなくなったからといって厳しく取り立ててはならない――はずだ。ところが現実はちがう。借りるときだけ「奨学金」という優しい顔を見せながら、返済は貸金業者と変わらない。私をはじめ、日本学生支援機構に対する批判の核心はそこにある。 債務超過になって法的整理を余儀なくされる事態というのは好ましいものではない。極力避けるべきだ。当たり前のことである。学資に困ったら借りろ、返済に困っても「自己破産」や「民事再生」を使えばいい、と公言する大内氏は、結局は金を受け取る側(大学とそこから給料をもらう者たち)のことしか考えていないように見える。要は、身の程を超えた借金をしてでも学費を払えと言っている。無責任きわまりない。
